【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

読んで字の如し〈木ー6〉「柳」

2011-02-15 18:41:03 | Weblog
「川柳」……川に自生する柳
「風に柳」……台風には負けることがある
「柳に風」……葉ずれが生じる
「柳の下にいつも泥鰌はいない」……泥鰌にも引っ越す自由がある
「青柳」……青ざめた柳
「柳生」……柳発祥の地
「蒲柳の質」……カワヤナギの質
「見返り柳」……柳の幹がねじれている
「柳川鍋」……柳川市が丸ごと入っている鍋

【ただいま読書中】『耳の聞こえないお医者さん、今日も大忙し』フィリップ・ザゾヴ 著、 相原真理子 訳、 草思社、2002年、1900円(税別)

著者はアメリカではごく普通の家庭医(開業医)です。くさい鼻水が止まらない子供の鼻の穴から異物(たぶん腐ったスポンジ)をまるで手品のように取り出したり(時には本当に手品で子供ののどから赤いボールを取り出して見せたり、なんて芸当もします)、前立腺癌の診断をつけたり、急なお産で赤ちゃんを取り上げたり、“守備範囲”は日本の開業医よりはずいぶん広い印象ではありますが。ただ、アメリカでもユニークなのは、彼の耳がほとんど聞こえないことでしょう。
著者の両親も医者ですが、ユダヤ人差別のために医学部入学で二人とも苦労していました。そして著者は、成績は優秀なのに耳が聞こえないことで入学に苦労します。面接官は「どうやって患者とコミュニケーションを取る?」(今あなたとやっているように)、「授業についてこれるのか?」(高校の成績を見たら?)と著者を不合格にする理由ばかり探します。
日本にもたとえば全盲の医者がいますが、国家試験を受けるのは(そして合格するのは)大変だった様子です。そして、アメリカでもその事情は似ています。著者は「戦い」続け、自分の夢を実現していきます。そしてその戦いは、開業医となってからも続きます。医者としての仕事の大変さだけではなくて、聾者としての大変さも加わりますから(教師、銀行や保険会社の障害に対する無理解ぶりには、他人事なのに読んでいて腹が立ちました)。さらに、著者の「お客さんたち」のユニークな人間像。もうここまで変な人が集まりますか、と言いたくなるくらい凄い人たちを著者は相手にしています。ただ、仕事の大変さを著者はそれほど苦にしていません。著者が自分の仕事と同時に、「人間」と自分の人生を愛しているからでしょう。
そうそう、意外なのは、高音は全然聞こえず低音がかろうじて、なのに、著者は聴診器が使えることです。これは本人も「不思議」と言っています。

そうそう、「聴覚障害者」とまとめて表現されることは、著者にとっては腹立たしいことのようです。聴覚障害の程度によって、それぞれの人が住んでいる世界が全然違うのに、それを十把一絡げにするんじゃない、と言いたい様子。単純に「全聾」と「程度が中くらいの聾(難聴者)」とでも二分しても、前者は手話しか使わず「ろう社会」の一員として生きますが、難聴者は(特に手話が使えない場合には)ろう社会で生きることはできずだからといって健常者の社会で生きるのも難しいのです。そして「聴覚障害者」は「二分」できるような単純な集団ではありません。アメリカの開業医の生活に興味がある人と、ほとんどの音が聞こえない人の生活に興味がある人には、面白くて面白くて堪らない本のはずです。




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