【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

鬼の居ぬ間に

2011-02-13 18:17:02 | Weblog
先週、家内が数日留守をしました。休日にはのんびり朝寝を、と思いましたが、いつもより1時間くらいしか余分に寝られませんでした。天気予報を確認したらその日は寒いけれど、晴れの予報。まずは洗濯機を回すことにしました。見よう見まねで、お風呂の残り湯を入れてスイッチポン。機械がやってくれるのは快適ですね。洗濯物ができあがるまでに朝飯を子供の分と、と薬缶をしかけたところで朝のブログへの投稿を忘れていることに気づきました。パソコンを起こしてごちゃごちゃやってるとお湯が沸きます。
いつもよりあわただしいなあ。やっぱり「鬼」はいてくれた方が良いのかな?

【ただいま読書中】『夢小説/闇への闘争 他一篇』シュニッツラー 著、 池内紀・武村知子 訳、 岩波文庫(赤430-5)、553円(税別)

目次:「死んだガブリエル」「夢小説」「闇への闘争」

巻頭に置かれている、タイトルでは「他一篇」とされている「死んだガブリエル」がわずか29ページの短編ですが、拾いものです。
恋人の大女優ヴィルヘルミーネに捨てられたガブリエルが自殺して1ヶ月。ガブリエルの旧友だったフェルディナントは、やっと人前に出る気になって参加した舞踏会で、ガブリエルに恋いこがれていた(そしてその愛が実らなかった)イレーネと出会います。彼女もまたガブリエルを失った虚脱感からやっと脱して、人前に出る気になっていたのでした。お互いを探り合うような、イレーネとフェルディナントの会話は、ぎりぎりの緊張感のエッジを進みます。さらにイレーネはヴィルヘルミーネを訪問する計画をフェルディナントに打ち明けます。夜の町、二人は馬車で出かけます。
三人の会話では、本当のことをあからさまに語られず、言葉は“真相”の回りをたゆたいます。闇の中をぼんやりとランプか蝋燭で照らして透かしてみるような雰囲気が濃厚な作品です。
そして、その「ランプか蝋燭で闇を照らして透かしてみるような雰囲気」がもっと濃厚なのが「夢小説」。これは5年くらい前に『アイズ・ワイド・シャット』(映画の脚本と原作の合本)で読みました。あちらでは「ドリーム・ノベル」というタイトルでしたが。
仮面舞踏会から戻ってきた夫婦。夫は、自分の中に妻以外の女性への欲望があることに気づいていますが、それと同じことが妻の心の中にもあることを知って衝撃を受けます。妻は結婚したとき処女でしたが、それはただの偶然だった、と彼女は言います。19世紀末のウィーンには自由恋愛の気風が充満していたはずですから、あえてそういうこと自体に意味があったのでしょう。
夫の職業は医者。死と毎日向き合っています。死とエロス。あるいはクリムトの絵。そして映画の「アイズ・ワイド・シャット」。スタンリー・キューブリック監督がこの作品の「雰囲気」を(光と闇をうまく配合することで)いかに上手く映像化していたかには、原作を読んでからあらためて感心します。ストーリー? そんなものはどーでもよろしい(極言)。
どーでもよろしいと言ったら、最後の「闇の闘争」でもストーリーはそれほど重要ではないように思えます。強いて言うなら「蝋燭の表面に描かれた絵」のようなもの、かな。もちろん美しい絵が描かれているのは良いのですが、蝋燭には火がつけられるのです。そして、その絵は少しずつ燃えていきます。ああ、美しいなあ、はかないなあ、と呟きながら私は本を閉じることになります。




コメントを投稿