【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

海中は海上にあらず

2021-12-17 20:53:54 | Weblog

 海上自衛隊に潜水艦がいるのは、名前に反していませんか? 航空機は……「海の上の空中」と強弁することは可能だし、そもそもかつて日本海軍には局地戦闘機(空母ではなくて陸上基地から発進する海軍の戦闘機)がいたからこちらはOKにしますが。

【ただいま読書中】『帝国陸海軍の戦後史 ──その解体・再編と旧軍エリート』山縣大樹 著、 九州大学出版会、2020年、4000円(税別)

 占領軍は「日本軍は武装解除、解体」と命令したはずですが、実際には「日本軍」は戦後の日本政治に大きな影響を残していました。本書は「旧軍エリート(主に佐官以上の職業軍人)」が「戦後(占領期の45年〜52年、さらにその後の10年)」にどのような活動をしていたか、を研究して「日本の戦後」の一面を明らかにしようとしています。
 敗戦後、陸軍省・海軍省は第一復員省・第二復員省に改組されました。もっとも内部の人事構成は敗戦前のものがそのまま横滑りでした。やがて二つの省は復員庁に統合されやがて厚生省外局の引揚援護庁の傘下に組み込まれることになります。なおこの組織は現在の厚生労働省援護局となっています。
 GHQによる公職追放は21万人(うち職業軍人は16万人)。ところが復員省では(他の官庁や地方でも)その専門性・有用性が認められ、旧軍人に対する「公職留任(公職追放の猶予)」が大々的に行われました。
 つまり、旧陸軍省・旧海軍省は、厚生省に、人ぐるみの組織を組み込んで保存させていたのです。
 GHQの旧日本軍の非武装化を断行しましたが、「経済的非武装化」の一環として軍人恩給の停止も行いました。停止は1946年2月1日、復活は、講和・独立後の53年8月1日です。日本は大騒ぎです。戦前の日本では軍人恩給は「当然の権利」でした。それが、戦争でひどい目に遭っただけではなくて「権利」まで停止されてしまったのですから。もっとも、一般国民から見たら「権利」ではなくて「軍人(家族)の特権」ではあったのですが。日本独立後「恩給法の復活」論議が始まります。そこで「特権性」が大きな問題となります(「民間人の戦争犠牲者」「旧植民地出身者」への補償をどうするか、も議論の対象となりました)。さらに「軍人」の中にも、加算年などの制限から「不平等性」が露骨に存在していて、それに対する不満も噴出しました。そういえば私の伯父は陸軍少尉で戦死しましたが、その妹(つまり私の母親)はそれに対して国は何もしてくれていない、と言っていましたっけ。ともかく軍人恩給は復活。するとその拡充を求める声はかえって強くなりました。その中心となったのが53年結成の「旧軍人関係恩給権擁護全国連合会」(軍恩全連)です。他にも「遺族会」「日本傷痍軍人会」なども活動をしていました。各団体は、ロビー活動や保守系政党への選挙協力など、活発な活動を続けました。彼らの主張で面白いのは「敗戦の責任は全国民が負うべき」と言っているのに「軍人恩給を社会保障に組み込むことには反対」していることです。戦争責任は全国民のものだが、恩給は軍人の特権、と言うわけです。でもその運動方針は、ロビー活動と選挙。団体からも議員を出しますし、自民党に協力して自民党議員の議席を確保します。きわめて民主的です。
 「新海軍創設」の動きは、はじめは旧軍エリートたちが、ばらばらに「個人的研究」として模索していました。それが、おそらく50年の警察予備隊創設がきっかけとなったのでしょう、51年ころから旧軍人だけではなくて、日本政府要人やアメリカも交えての交流が盛んになります。ただ、露骨に「再軍備」に動くことはありませんでした。まだそんな時代ではなかったようです。アメリカの「コーストガード」をモデルにして、領海の治安を維持することを考えるのがせいぜい。もっともアメリカの沿岸警備隊は、陸海空軍海兵隊とならぶ「軍隊」なんですけどね(今だったら宇宙軍も含めるべきかも)。51年はじめに、ジョン・ダレス国務省顧問が特使として来日。彼の真意は日本の主権回復と再軍備・米軍基地の維持でしたが、それは明かされず、ダレスと交渉した旧軍エリートたちは不安に苛まれることになります。様々な計画案が提出されますが、そこには「空海軍創設」を見越した大胆なものが多く含まれていました。最初はその積極性に驚いた米軍幹部も、話し合いを重ねるうちに認識が一致していき、「海上保安庁」を越えた存在である「海上自衛隊」が姿を明確にしてきました。
 歴史の中の「アクター」としての旧軍エリート、という視点はなかなかに刺激的でした。ただ人数がやたらと多いから、一つのイメージですべてを律することは困難です。人はみなそれぞれの思惑で動きますから。でもその結果、時代が動いていくんですね。
 ところで現在の時代の「有力なアクター」って、どんな人たちなのでしょう?

 



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