【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

理科から離す人

2014-02-12 07:04:27 | Weblog

 「理科離れ」なんて言いますが、どうしてなんでしょう。
 たとえば「料理」は、生物学・栄養学・化学がわかるととても面白くなります。外国の料理だと、理科ではありませんが、外国語・地理・歴史も絡みます。洗濯は、環境学・物理学・化学の出番ですね。そのへんを複合的に学習できたら、とてつもなく面白い“授業"になるのではないかと思えるのですが。
 理科に関して、「離れる人」ではなくて「離す人」の方に、もしかしたら何か問題はありませんか?

【ただいま読書中】『洗たくの科学』花王生活科学研究所 編、襟華房、1989年(96年10刷)、1400円(税別)

 紀元前2000年頃のエジプトの壁画には洗濯の場面が描かれ、パピルスの記録には天然ソーダに動物の脂肪を加えて熱する「石鹸」が残されています。人類はそれ以外にも、粘土や植物など様々な洗浄剤を試してきました。ローマ時代には尿を分解したアンモニアも用いられています。
 日本で「洗濯」が大きく変わったのは、1950年代、電気洗濯機と合成洗剤の登場によってでした。その後も技術の進歩は止まらず、合成洗剤は、最初は1回に150g必要だったのが、最近は25gになっています(本書出版から20年以上経っているので、今はもっとコンパクトになっています)。
 洗濯機に衣類と洗剤を放り込んだら自動的にきれいに洗濯されるか、といえば、そうではありません。汚れの種類(や付着のしかた)によって洗剤を使い分ける必要があります。
 もっともポピュラーな「汚れ」である「汗」を分泌する汗腺は「エクリン腺」と「アポクリン腺」に分けられ、それぞれ「違う汗」を出しています。アポクリン腺からの汗には蛋白質や脂質が多く含まれています。「皮脂」には男女差(男>女)と年齢差(思春期に増え、男は60代・女は40代に低下する)、部位差(背中や胸に多い)があります。これらの「脂」が「下着の黄ばみ」の原因となります。
 汚れの付き方も、布の表面・繊維と繊維の間・単繊維の内部など様々で、その落とし方も場所によって違ってきます。
 さらに、ついた汚れに細菌が生息すると、話は(よごれの性状が)ややこしくなります。さらに汚れ物は臭くなります。
 ではその汚れを落とすためにはどんな科学が必要なのでしょう。ということで登場するのが「界面活性剤」です。本来混ざらないはずの水と油を混ぜる物質。しかしいくら強力な界面活性剤でも、単繊維の内部にまでは入れません。そこまで侵入して単繊維内の汚れを落とすのが、アルカリセルラーゼ(セルロース分解酵素)です。
 新品の白い衣料の多くは、「白さ」を出すために蛍光剤で染めてあります。綿・麻・レーヨンなどではこの蛍光剤が洗濯で落ちていきます。だからその補給のために洗剤に蛍光剤が配合されます。しかし、毛・絹などや、薄い色の衣料の場合には蛍光剤がない洗剤の方が良いことになります。「真っ白な洗い上がり」といっても、なかなか話は簡単ではありません。
 河川の富栄養化防止のために、無リン洗剤が開発されました。ただ「富栄養」には「リン」だけではなくて「窒素」も関係しています。一時期「合成洗剤=悪」「石鹸=善」という割り切り方をしている主張もかつてありましたが、そこまで環境の話は簡単ではない、が私の認識です。
 洗剤は「コンパクト」になったあと「バイオ」ブームとなりました。酵素配合です。先に書いた「アルカリセルラーゼ入り洗剤」が昭和62年に発売されて、大ヒットとなりました。
 「上手な洗濯」についてのヒントもありますが、まずは「洗濯物の絵表示をちゃんと見ること」からだそうです。ついで、水量に合わせて洗剤をきちんと計量。もちろん洗濯機の能力に合わせて洗濯物の量も考える必要があります(最近の洗濯機は洗濯物の量に合わせて水量を指定してくれますが)。使う水の量と温度、すすぎや干し方にも配慮が必要です。
 最後の章には「お洗たく相談室」に寄せられた相談が集められています。つまり「失敗から学ぼう」というもの。ここで駆使されるのが「化学」です。血液は水溶性だから、ついてすぐは水洗い(洗剤を併用)、しばらく経ったものはタンパク汚れだから酵素入り洗剤でつけ置き洗いあるいは酸化型漂白剤、それでも取れないものは鉄分だから還元型漂白剤(ハイドロハイターなど)、といった具合に解説されています。やっぱり学校で「理科」はしっかり習う必要がありそうです。



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