【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

本当の名声

2014-08-29 06:38:04 | Weblog

 総理大臣を辞めてから数年後あるいは数十年後に「あの人は偉かった」としみじみ言ってもらえる人って、日本にどのくらいいるのでしょう?

【ただいま読書中】『福島第一原発収束作業日記 ──3・11からの700日間』ハッピー 著、 河出書房新社、2013年、1600円(税別)

 ツイッターで「@Happy11311」と名乗る原発作業員の記録です。
 「3・11」のとき、著者はまさに「1F(福島第一原発)」で仕事中でした。地震と津波でぐちゃぐちゃになった1Fの現状に驚きつつ、何の情報もなく指示命令もないためそのままずるずると待機に。翌日やっと免震棟に入ることができ(菅首相がやって来たために無駄な足止めを食らいましたが)、作業を開始すると、1号機の水素爆発、そして14日には3号機が爆発。著者は天井から降り注ぐ瓦礫の下で、死を覚悟します。やっと免震棟に避難した著者は、そこで撤退を命じられます。
 原発から外に出た著者は、やっと地震と津波の被害のひどさを知ります。それと、“評論家”たちの発言のひどさにも驚きます。原発の知識が足りず現場の状況も知らない人間が憶測だけでデマをマスコミでまき散らしている姿に、自分が何ができるか、と自問した著者は「つぶやこう」と決心したのです。
 すぐに現場に戻ることを志願した著者は、「まず年配者優先」という会社の方針から待たされますが、4月1日に応援要請がやってきます。しかし全面マスクや防護服や合羽のフル装備で一日重労働をして過ごす(装具を外せるのは免震棟の中だけでそのための手順にやたらと時間食うものだから、作業中は水も飲めない)というのは、本当にしんどい生活です。ただ著者は「作業員だからといって特別な人間ではない。ごく普通の人間。ただ、働く環境が特殊なだけ」と“普通”に言っています。
 4月に東電は「冷温停止のロードマップ」を発表し、9ヶ月で事態を収束させると宣言します。それを見た「現場の人たち」は「こんなのできるわけねぇべ」と思います。理由は簡単です。原子炉内部の詳細状況も破損部位の状態も把握していない/作業の手順は確定していない(現場では行き当たりばったりの作業が続いている)/作業の契約金額も未定(作業員の確保もまだ)……この状況でどうやって「9ヶ月」という数字が導き出せるでしょう? そんなの「適当に言ってみただけ」でしかありません。それにしても現場の状況を確認せずに工程表を作成するとは、本当に良い度胸の持ち主が東電にはいるようです。作業員の数は足りないのに菅首相は「24時間働け」と言い、著者たちはぼろぼろの状態でひたすら動き続け、被曝量だけは増加していきます。
 5月、汚染水の循環システム設置が始まります。しかし、被ばく線量の制限で、慣れた作業員はどんどん入れ替わります。やってくるのはマスクをつけるのも始めて、という人が多く、作業効率はさらに下がります。さらに東電は「作業効率を上げる努力」を放棄しています。メーカーに仕事を丸投げしてからプレッシャーをかけるだけで、各社の調整とか新人作業員の教育とかをする気は一切ありません。怒鳴っていたらフクシマが解決するのなら、一生怒鳴っていれば良いんですけどね。
 著者から見て、東電が各メーカーに仕事を丸投げするのと同様の態度を取っているのが日本政府です。「国策」だったことなんか忘れてしまったように、「一企業の事故」として扱おうとする(処理を東電に丸投げしようとする)態度がアリアリ。「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」ということばがありますが、政府の高官は「利権の上がりは俺のもの、事故の処理はお前のもの」なのかな。
 著者は自身のことを「オイラ」と自称しているし「自分は作業員でし」なんて感じでつぶやき続けるから、下っ端の作業員なのかと思ったら、東京での会議にも出席する立場の人です。専門用語も普通に使っているし視野も広いし、こういった現場を知っている人が会議の主導権を握れたら「作業中の想定外」はずいぶん減るんじゃないか、とは思いますが、「現場に詳しくない人間」が出世争いで勝つのは世の習いで、そういった人間は「現状に基づかない自分の信念」を押し通すことだけは得意ですから、結局不幸は拡大再生産されるだけですね。日本の組織を「平時」と「非常時」にきちんと分けるようにしないと、“想定外”の大事故の時の対応でミスの連鎖が続くのはどうしようもないことなのかもしれません。あるいは「まともな人間を出世させるシステム」に日本の会社を改革するか。被曝の恐怖に怯えながらも責任感から現場から逃げずに働き続ける人を見ると、東電幹部の無責任な言動のひどさがまた際立ちます。マスコミも「大スポンサー様」だからあまりきつい報道ができない、ということなのかな。やれやれ。



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