【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

科学の動機

2014-08-28 06:32:23 | Weblog

 科学を進める根底には、好奇心とか功名心とか人間らしい感情がたっぷりあるように私には思えます。その中で異色なのは防災に関する科学でしょうか。その根底には「悔い」があります。「この被害を防ぐことができなかった」という後悔や無念さが。
 というか、そういった人間的な感情を欠いた科学者には、人の営みに直結する科学の分野には手を出して欲しくはありません。

【ただいま読書中】『地下に潜む次の脅威 ──NHKスペシャルMEGAQUAKE III 巨大地震』NHK取材班、新日本出版社、2014年、1800円(税別)

 NHK取材班は、活断層をターゲットに取材を続けています。それは、東日本大震災をきっかけに日本列島全体の地下のバランスが変化し、活断層が動きやすくなっているからです。大震災で、日本列島が乗っているプレートは東に移動し、それにつれてその下のマントルも東に引っ張られました。マントルが移動したあとを埋めようと他の場所からマントルが上昇しながら移動し、その結果地盤の隆起が日本のあちこちで起きています。それがこれまで静かにしていた活断層を刺激している、という理論です。
 活断層が地表に出ていればまだ見つけやすいのですが、問題は岩盤が堆積層で覆われている場合です。関東平野は堆積層が分厚く、さらに火山灰も降り積もっていて過去の地形がわかりにくくなっています。さらにこの堆積層が、活断層によって起きた地震の揺れを増幅することがあるのだそうです。
 活断層の研究には、航空レーザー測量(地表から建物や樹木を除いて地表の高低を表現する)や起震車(大型バイブレーター)による地下構造の解析が用いられています。これらの研究を組み合わせることで、これまで見えていなかった活断層が見えるようになってきました。たとえば大都市の地下や、海底にも。
 ここで話は一度過去に戻ります。関東大震災です。最新の科学で関東大震災を解析し、実際にそこでどんなことが起きたのかを学び教訓を得ようとします。その教訓の一つは皮肉なことに「人は過去の教訓をすぐに忘れる」ことでした。ひどい場合には「学術とは別の世界からの横やりで、警告が無視される」ことさえあります。
 本書の最後には「国難」とさえ呼ばれる過酷な予測が登場します。南海トラフによる大震災です。大阪と名古屋はほぼ壊滅、首都圏も深刻な被害、死者は32万人。それをどうやったら「減災」できるか、そのためにできる準備は少しでもしておいた方が良さそうです。
 本書はテレビ番組の“サイドストーリー”のようなもので、CGなどの写真はありますがやはり画面で見るよりは視覚的インパクトは薄くなります。しかしそのかわり、文字情報は充実しています。特に「地震にかかわる人」の生の声(思い)が、テレビよりはよく伝わってきます。



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