1)「ちょっとお邪魔してよろしいですか?」
「そう話しかけられた時点で、すでに邪魔されています」
2)「ちょっとお邪魔してよろしいですか?」
「いいえ、邪魔して欲しくありません」
【ただいま読書中】『世界の陰謀論を読み解く ──ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ』辻隆太朗 著、 講談社現代新書2146、2012年、780円(税別)
「陰謀論とはひとつの文化的潮流」と著者は述べます。それは歴史の中に確固として存在し続けた(そして現在も存在している)ものなのです。
まずは「オウム真理教」。オウムは陰謀論を採用していましたが、その中身は意外に平凡で“できあいの陰謀論”の流用でした。重要なのは「世界と自分たちの現状を『陰謀論』によって解釈する」という「解釈枠組み」を教団で共有すること、だったのです。
「ユダヤ人」は陰謀論の“主役”です。ベースには中世以来の西洋の“伝統”「ユダヤ人差別」があると私は思っていますが、今日の「ユダヤ人陰謀論」の基本形式を決定したのは『シオン賢者の議定書』という文書でした。これはユダヤ人秘密組織の秘密文書が流出したもの、だそうで、ユダヤ人がフランス革命を起こし、世界中の青少年を堕落させ、最終的に世界をめちゃくちゃにしてから世界征服をする、という道筋が書いてあります。これを真に受けた一人がヒトラーでした。
ユダヤ人陰謀論にもフリーメーソン陰謀論にも大きな共通点がある、と著者は述べます。「中世キリスト教に対する“改革”としての近代主義への反発」が「陰謀論者」のバックボーンに存在している、と。したがってよく「陰謀」には「反キリスト」のレッテルが貼られることになります。したがって、早期から「ユダヤ」と「フリーメーソン」の陰謀論は混じり合いました。
「イルミナティ」は18世紀に短期間実在した秘密結社です。その理念は「普遍的な人類愛」「迫害や圧政からの解放」「迷信の打破」「理性の光による人間的完成」。当時の啓蒙主義がまだ花開かない絶対主義社会において、特に反啓蒙主義者にこれは「反社会思想」でした。だから「秘密結社」だったのです。当時混乱期にあったドイツフリーメーソンのメンバーを次々取り込んでイルミナティは急成長しますが、あまりに違う考えの人間が集まったために結局崩壊します。面白いのは、組織が消滅した後「イルミナティ陰謀論」が登場し急成長したことです。「反社会」「反キリスト」のレッテルが貼れる(というか、実際に“その活動”をしていた)のですから陰謀論に取り上げるには良い素材ですが、ちょっとマイナーすぎますよね。それが、1975年の娯楽小説「イルミナティ」、そして1982年のカードゲーム「イルミナティ」がヒットして、一躍“メジャー”になってしまいます。小説もカードゲームもあくまでフィクションとして陰謀論をパロディとして扱っているのですが、陰謀論者は“真面目”に、そこに描かれているものを「事実」「陰謀の証拠」として捉えました。
面白いのは、「陰謀で世界のすべてを説明しよう」とすると、人類発祥あるいはそれ以前にまで話が遡ってしまうことです。なにしろ「すべてが陰謀」なのですから。さらに「単純さ」と「複雑さ」のきわどい両立も見えます。「世界が自分の理想とはかけ離れた姿になっているのは、単一の邪悪な意志によるものである」と決めつけ、その邪悪な意志が繰り広げる陰謀は様々な組織のネットワークによって遂行されている、とするのですから。けっきょくこれは「自分は被害者(どこかに自分を陥れる“犯人(悪人、悪の組織)”が存在している)」という意識と現実世界のグローバリズム(ボーダーレス)の反映なのですが。
「陰謀論」というと「妄説を信じる人の集団」といった感じで捉えられがちですが、「陰謀論」にもきちんとした社会への立脚点があります。本書で論じられている「アメリカの陰謀論」はそのまま「アメリカ社会を理解する糸口」として使えます。ここに登場するファンダメンタリスト(キリスト教の原理主義者)の思想は、陰謀論または現実のアメリカの政治を理解する“補助線”として有用でしょう。
ところで、西洋の陰謀論はキリスト教を“基準線”に使うと理解しやすいのですが、日本での陰謀論はどう理解したら良いのかと思ったら、本書にちゃんとヒントがありました。陰謀論者は「できあいの陰謀論」から「自分に都合の良い部品」をいくつも集めてきて「自分の主張(自分は被害者、自分は正しい、世界は誰かに支配されている、自分はそれを知っている)」の回りに組み立てていくのですが、日本人はたとえキリスト教のにおいが強くてもその“部品”をうまく加工(キリスト教の“におい”を抜く作業を)したら良いのです。たとえ“部品”同士の整合性が悪くて矛盾が生じても、「自分は正し」くて「間違っているのは世界」なのですから。
そうそう、実は「日本」も「陰謀の実行者」の一人です。1927年に田中義一首相が昭和天皇に上奏した「田中上奏文」という文書で、台湾・朝鮮・中国とステップを踏んで、最終的には世界征服を目指す道筋が書いてあります。日本政府は偽書であると主張しましたが(実際に内容には日本人ならすぐにわかる明らかに変なところがあります)、世界では「日本による陰謀の明白な証拠」と見なす人が多く東京裁判でも「有罪の証拠」として使う準備がされていたそうです。ユダヤ人陰謀論などを信じたり楽しむ日本人自身が、実は「陰謀の主役」と世界から見なされているかもしれない(見なす人がいる)ということです。
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