【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ネガティブなふりがな

2019-12-05 07:34:35 | Weblog

 詐欺犯から見たら「善人」は「まぬけ」や「かも」とルビをふる存在なんでしょうね。
 ネットの世界では「情弱」はやはり「まぬけ」か「けいべつのたいしょう」かな。
 ところで善人とか弱者って、社会の中でそんな風に遇されるべきでしたっけ?

【ただいま読書中】『陸上自衛隊の災害派遣の社会学的分析 ──東北地方・太平洋沖地震及び熊本地震を中心に』田中伯知 著、 高橋俊哉 研究協力、早稲田大学危機管理研究会、2017年

 阪神淡路大震災で自衛隊の「自己完結型」の組織としての活動は社会から高い評価を得ました。そのせいか、自衛隊を違憲と言っていた日本社会党は解党の道へ。地震は、地面だけではなくて社会をも揺さぶったようです。この時の教訓は東日本大震災で活かされました。たとえば仙台の東北方面航空隊では、地面が揺れている真っ最中にヘリの離陸準備が始まり、十数分後には偵察飛行が始まりました。各方面隊ごとに2機のヘリに平成8年に採用された映像伝送装置が搭載されていて、リアルタイムで映像を司令部に送ることができました。しかし隊員は「家族の心配」「偵察ではなくて目の前の人を救いたいという思い」「津波の被害の大きさ」に衝撃を受け続けながらも「この任務は大切なことなのだ」と自分に言い聞かせていました。
 初動の素早さと的確さはその後の救援活動に大きな影響を与えます。ですから初動チームには、マニュアル通りの厳格さと臨機応変さの両方が求められます。その重要性はすでにアメリカでの災害の社会学的研究で指摘されていますが、日本でもそれが実証的に見えたようです。しかし「災害の衝撃は、通常の意思決定の洋式を一旦停止させ、それに替わる別のパターンの出現を生み出す」とあるのは、「社会」だけではなくて「個人」にも言えることでしょうね。そして、それができる人はできない人よりも生き残る確率が高まるのではないか、と私は予想します。
 偵察隊に続いて救援隊が出動します。遠野から釜石を目指した部隊は、3月11日の暗夜、凍った国道や県道を通過、海岸に近づいたところで津波の影響でそれ以上進めず一度Uターン、冬季通行禁止の立丸峠を突破して大槌町に到達しています。行くだけで命が危ないじゃないですか。というか、隊員は認識票を二枚首から下げるのですが、死亡時に一枚は遺体に残しもう一枚は回収するためだそうです。遺体が回収できない状況を想定しているんですね。
 ある隊員は、一睡もせずに乾パンと水だけで3日間過ごしています。いや、緊急事態だから、というのはわかるのですが、もうちょっと待遇をなんとかできないか、とも思います。交代制の方が結局効率は良くなるのではないかなあ。30%の力で24時間働くよりも、100%の力で12時間働く方が達成できる仕事量は多いですから。しかし「戦力回復」のための部隊ローテーションができるようになったのは、3月末〜4月になってからのことでした。
 日本航空は「羽田=岩手花巻空港」の臨時便を飛ばしました。陸上の交通インフラが甚大な被害を受けた状況で、東北を孤立させないための臨時便です。赤字の地方空港は平時には厳しい目を向けられますが、非常時にはありがたいものになるんですね。
 本来「自然災害」は非社会的な存在です。しかし実際に生じる「損害」は「自然災害」と「社会」の相互作用によって生じています。そしてその損害に上手く緊急対応できる組織が、自衛隊でした。
 当時中国は尖閣諸島に盛んにちょっかいを出していました。そのためそちらへの対応も自衛隊はしなければなりません。台湾が義援金をどんと出してくれたのももしかしたら中国に対する一種の牽制だったのか、なんてことも思います。考えすぎかもしれませんが。「トモダチ作戦」で出動したアメリカ艦船(特に原子力空母ドナルド・レーガン)を標的に中国潜水艦隊が出動していたそうですが、そちらに対する警戒も行わなければなりません。もう、忙しいときには静かにしていてくれ、と言いたくなったでしょうね。
 最後に日蓮の「立正安国論」が登場します。これはこの前ちらっと読みましたが、「国」と「民」と「災害」と「救い」がほぼ等値であるように私には見えました。ただ本書では「国」の比重が重たくなっているようです。すると「次の大災害」で、自衛隊はおそらくベストを尽くすでしょうが、国(政府)はベストを尽くせるようにシステムを整備しているのかどうか、そこの所も研究していって欲しいと思いました。




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