【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

o.1でも100倍したら10になる

2020-11-20 08:06:45 | Weblog

 政府は「万全の対策を立ててGoToをじゃんじゃんやれ」と言っています。ところで具体的に「万全の対策」って、何?
 「自助」の社会だそうですから、みんなが個人で頑張って「これまでよりも感染リスクを10分の1にする努力」をしたとしましょう。しかし、GoToで人がこれまでの100倍動き回ったら、結局トータルのリスクは「0.1×100=10」つまり「10倍」になります。ここまではあくまで理論上の話で、数字は仮置きですが、実際に「第三波」を見ていると、「皆はリスクを10分の1にはできていない」「それでもGoToでこれまでの10倍以上の人が動き回っている」の結果が厳然と出現しているように見えます。(もしも、陽性率・重要者数・病床使用数、などのグラフを見て何もわからない人がいたら、そういった人は脳ミソをほじくり出して糠味噌でも詰めておけば良い、と私は思います。どうせ同じことですから、と言うと糠味噌に「使わない脳味噌はただのデッドウエイトだが、糠味噌はぬか漬けなどで役に立つぞ」と反論されちゃうかな)
 政府は「人出を100倍にする」つもりなのだったら同時に「リスクを100分の1にする具体的な方策」も示すべきではないです? 「個人の努力に任せる」のではなくて。もしも「政府の中の人」の頭蓋骨に脳味噌が入っているのだったら、ですが。
 ところで、旅行や飲食以外に「回すべき日本経済」は存在しないのですか? なんでそこまで「GoToにだけ」固執するのかなあ。

【ただいま読書中】『日本海海戦 悲劇への航海 ──バルチック艦隊の最期(下)』コンスタンティン・プレシャコフ 著、 稲葉千晴 訳、 NHK出版、2010年、2100円(税別)

 「第二太平洋艦隊」は2箇月以上も足止めされたマダガスカルからインド洋を一気に横断して(というか、イギリス領のインドを避けたらどこにも寄れません)フランス領インドシナを目指します。シンガポール駐在のロシア領事は「艦隊を支援せよ」と命令されましたが、石炭貯蔵や食糧調達やスパイを雇うための予算も人員も十分な支給はありません。
 イギリスのスパイは「第二太平洋艦隊」がマダガスカルを出発した後まったく消息不明となったことで途方に暮れます。日本に向かっているのか、それともロシアに帰国しているのか、不明です。「第二太平洋艦隊」を支援せよと思いつきのような命令で急遽編制された「第三太平洋艦隊」もジブチで途方に暮れます。合流するべき「第二太平洋艦隊」がどこにいるのかわからないのですから。もうロシアの戦争体制はぐだぐだです。それでもロジェーストヴェンスキーは彼にできる最善を尽くします。少なくともシンガポール沖は、整然と隊列を崩さずに通過して、イギリス人たちに戦闘準備ができていることを見せつけました。世界の多くの人は、艦隊はマラッカ海峡を通過しないだろう、と予想していました。あまりに待ち伏せが容易だから、別のルートを選択するだろう、と。しかしその予想の裏をかいて、ロジェーストヴェンスキーはマラッカ海峡を通過。さらにもう一つ、世界の予想の裏をかこうとロジェーストヴェンスキーは画策しますが、それはアレクサーンドル三世号の間抜けな艦長の行動によって潰されてしまいました。いやもう、ロジェーストヴェンスキーがお気の毒です。もしこのときロジェーストヴェンスキーの大胆な作戦が発動できていたら、艦隊の主力はウラジオストクに到着することはできたかもしれません。
 カムラン湾でまたもや無為な日々。日本はフランスに対して「中立を守れ」とプレッシャー。しかしロジェーストヴェンスキーは「第三艦隊の到着を待て」の皇帝命令を無視できません。マダガスカルでクリスマスを過ごし、そしてインドシナでは復活祭。カレンダーはどんどん進みます。ウラジオストクまで一気に行けるように石炭が船室にまで詰め込まれ、士官は士官室に入ることができなくなります。熱帯の病気が蔓延し、士気はどんどん下がります。
 各国の専門家は「東郷が得意の丁字戦法を使うだろう」とすでに予想していました。連合艦隊は実践経験を既に積んでおり、さらに戦闘時に15ノットを出せます。バルチック艦隊も最新鋭艦は15ノットが出せますが、もっと遅い艦が多く含まれていて、艦隊行動をする場合には8ノットくらいとなります。さらに乗組員の練度と疲労度と士気の問題。それはロシアでも把握していたらしく、日本海海戦前の特別会議ではアレクセーイ大公は、艦隊決戦に負けるだけではなくてウラジオストクも失うのではないか、との危惧を表明していました。そして、会議に参加した他の大臣たちは沈黙。誰も反論をしなかったのです。好戦的だったのは、皇帝だけでした。
 増援の支隊がやっと合流、数だけは増えた艦隊(「第一」はもう壊滅しているのに「第二太平洋艦隊」、バルト海にいないのに「バルチック艦隊」)は、しずしずと日本海を目指します。東郷には信頼できる部下がいましたが、ロジェーストヴェンスキーは唯一の信頼できる司令官が航海途中に脳卒中で倒れて以来誰も頼れなくなっていました。
 足があまりに遅くもう用がなくなった輸送船6隻は艦隊から分離して上海へ、欺瞞工作として巡洋艦を日本の太平洋岸へ派遣、病院船だけはそれを明示するために船内灯をつけ他の艦船は灯火管制、とできる準備はおこなってから、艦隊は漆黒の対馬海峡に突入します。前日から急に静かになっていた日本軍の無線が急に再開されます。バルチック艦隊は発見されたのです。
 午前2時45分にバルチック艦隊を発見したのは、仮装巡洋艦信濃丸。クリスマスツリーのように輝く病院船の明かりを頼りに近づいて、おぼろげな船影を多数確認したのです。東郷は直ちに出陣しますが、即座に戦うのではなくて、バルチック艦隊を対馬海峡の一番狭いところに誘い込むことにします。ロジェーストヴェンスキーは連合艦隊の出方に応じて陣形を再編成しようとしますが、「無能な艦長」(3箇月前にロジェーストヴェンスキーが下した評価)が進路変更に失敗、バルチック艦隊の戦艦は変な陣形で突進することになってしまいます。
 大方の予想通り、東郷は丁字戦法を採用。ただしこれは、一定の位置ですべての艦船が向きを変えるからそこは絶好の射撃ポイントになってしまうのです。連合艦隊に同行したイギリスの観戦武官は「日本のやり方は最悪」と評しています。ロジェーストヴェンスキーは砲門を開きます。タイミングは最高、砲手の腕は拙劣。旗艦三笠の回りは砲弾によって激しく沸き立ちますが、最初の15分で命中弾はたった19発でした。ロシア艦隊が打ちはじめてから3分後、東郷は反撃を命令。戦艦と巡洋艦が手分けをして、獲物を狩り始めます。ロシア艦隊はまだ戦闘隊形が整わず、後方の艦は前方の味方が邪魔で砲門が開けないのです。さらに、ロシアの砲弾は徹甲弾ですが、日本の砲弾は新開発の下瀬火薬を詰め込んだ炸裂弾でした。ロシア艦の上は灼熱地獄になります。旗艦スヴォーロフ号は行動不能となりますが、砲手は砲撃をやめませんでした。ところが他の戦艦は、縦隊から離れ蛇行する旗艦に従順に従おうとします。もっともさすがにこれはまずい、とアレクサーンドル三世号が先導艦となって艦隊を率いますが、即座に集中攻撃をくらい、45分間で炎に包まれて縦列から離脱することになります。その次はボロディノー号で4時間保ちましたが大爆発。そして夕暮れがやって来ます。
 『ツシマ』というバルチック艦隊に水兵として参加していた人の本があります。これはあくまで「水兵からの記述」ですが、本書は「公文書」からのもので、両者を合わせ読むと「ロシアから見た日本海海戦」がより深く理解できるでしょう。

 



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