【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

計画

2011-04-12 19:18:50 | Weblog

 計画停電に計画避難……小学生の「夏休みの計画」を思い出したのは、私だけ?

【ただいま読書中】『神様はつらい』(世界SF全集24)ストルガツキー兄弟 著、 太田多耕 訳、 早川書房、1970年

 ソ連の作家が作品のタイトルに「神様」を入れるとは度胸があるとまず思います。共産党支配の国に「神」は存在しないはずなのですから。
 森林地帯でピクニックをする若者たち。石弓や空気銃を携え、ウィリアム・テルごっこに興じています。次の章では舞台は中世を思わせる世界へ。しかしここは地球ではありません。「しゃっくりの森」「イルカン公国」「野蛮国」「父の木」「シウ鳥」なんて(この)地球には存在しませんよね?
 そこで孤独な騎馬行をしている貴族は、第1章で登場した若者の一人です。もう若くはないようですが。地球人の彼らは「この惑星」に派遣されてきたのでした。しかし惑星は悲惨な状況でした。無知と愚鈍が知性を迫害し、灰色の突撃隊員がかつては貴族だけが歩けた往来の真ん中を闊歩し、読み書きができる・一緒に酒を飲まない、などといったことが拷問と死刑の理由となっているのです。貴族ドン・ルマータ(を演じているアントン)はそのことに危機感を覚えています。何かをしなくては。しかし、なにを? 地球の実験歴史学研究所はその回答をくれません。社会機構を変革する技術力を持っていながら、それを駆使することは禁止されています。地球人の任務は、観察と記録なのです。
 やがてクーデターが起き、首都は争乱の渦となります。灰色の軍団は皆殺しとなり変わって黒色の軍団が国を支配します。ドン・ルマータはその中でも観察者として生きのびます。しかし、彼の優れた肉体的な力と知力と背景としている文明の大きな力に気づいた人は、ドン・ルマータのことを「神」(あるいはその化身、手先)として助力を求めます。「その気」になれば、たとえば政権をひっくり返すことは簡単です。しかし、ドン・ルマータ(あるいは、アントン)はそれをしません。しかし……
 愛する女性キーラを失い、アントンは一人で地球に帰還します。キーラ自身が自分の故郷に裏切られていたため、アントンはなんとか地球に一緒に連れ帰りたいと願っていたのですが。ふるさとを失ったキーラ、ふるさとを遠く離れ異世界で別の人間として生きているドン・ルマータ。彼らの「ふるさとへの思い」はどこかで断ち切られてしまっています。それはつまり、著者の「祖国を愛しているのに、現在の国はその愛にふさわしい素晴らしい形をしていない」という苦い思いの反映かもしれません。異国の人間の、後知恵の深読みかもしれませんが。




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