【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

未来の大人エレベーター

2018-01-04 07:13:04 | Weblog

 サッポロビールがお正月になると流す「大人エレベーター」ですが、このCMキャラクターをやっている妻夫木聡さんは何年経ったら「大人」としてこのCMに登場するのでしょう? そのとき妻夫木聡さんにインタビューをしている人は誰かな?

【ただいま読書中】『屋根うらの絵本かき ──ちばてつや自伝』ちばてつや 著・イラスト、 新日本出版社、2016年、1900円(税別)

 2011年3月11日、著者は東京で激しい揺れに見舞われ、津波で東北地方が甚大な被害を被る映像を観て、自身の満州からの引き上げ体験を思い出します。奉天で敗戦を迎えたときに、著者は6歳。一家は親切な中国人に匿われますが、その人は著者の父の友人とはいえ、日本人を匿っていることがばれたら自分の身も危なかったはず。著者の父が中国人を差別しなかった、つまり人徳によるものでしょうね。一家が閉じ籠ったのは物置小屋の屋根裏部屋。スケールや期間は違いますが、アンネの日記のような状況だったようです。やがて秩序が取り戻され、引き揚げ船の話が伝わりますが、港までは200kmの徒歩。著者をかしらにした4人兄弟をかかえて両親は必死に歩き通します。餓死・病死・「中国残留孤児」などは著者一家をギリギリのところで避けていってくれました。
 著者は何をやってもぐずでのろまだったそうで、かろうじてものになりそうだったのが漫画家への道だったそうです。戦後すぐにはブームだったけれどすでに斜陽産業となっていた貸本漫画の世界に高校生になっていた著者はおずおずと足を踏み入れます。そして少女漫画の世界に。著者も書いていますが、当時少女漫画でスタートした漫画家は多くいました。たとえば、松本零士、石森(のちの石ノ森)章太郎、赤塚不二夫、楳図かずお。そういえば石森章太郎の「龍神沼」「夜は千の目をもっている」なんか、少女漫画の名作でしたねえ。
 著者は「耐える悲劇のヒロイン」を描くことにストレスを感じ、活発なヒロインを登場させるようになります(それが人気を呼びました)。すると少年誌から声がかかるようになります。しかし著者はとんでもない遅筆。しかも当時「妄想傷害」という重い神経症に苦しめられていました。注文されたのは「野球漫画」ですが「遅筆だし野球そのものを知らないし」と断ろうとしますが、編集者が強引にキャッチボールを。それで大汗をかいてふらふらになったのがきっかけか、妄想は消退、一晩で「ちかいの魔球」の初回原稿が描けてしまいました。なんという“荒療治"でしょう。以後著者の作品には(「あしたのジョー」「のたり松太郎」「あした天気になあれ」など)スポーツ漫画が多くなります。
 1965年「ハリスの旋風(かぜ)」の連載開始。「待ってました!」と声をかけたくなります。楽しい漫画だったなあ。あまりの人気でテレビアニメにもなって主題歌は……あら、今でも、部分的にだけど、歌えます。「典型的なヒーロー」の対極に位置するキャラクターでしたが、著者はたまにそんなキャラを使いたくなるのだそうです。
 そして梶原一騎との出会い。原作者を得て「あしたのジョー」が始まりますが、「陽」の著者と「陰」の梶原一騎との組み合わせを危惧する人が多くいました。実際二人の仕事はぎくしゃくと難航しますが、一度歯車が噛み合うと「化学反応」が起きて作品が充実し始めます。そして「力石の死」に対して世間が示した(著者や原作者や関係者には予想外の)大きな、というか、大きすぎる反応。何しろファンが集まって「葬式」まで行われてしまったのですから。
 著者が付き合いのある漫画家の「昔」と「今」の話も興味深いものが並んでいます。そして、戦前の検閲制度に反発して職を変えて満州にわたった著者の父の血を引いたのか、著者もまた「検閲」に反対を表明しています。だけどすでに「検閲」を受け入れさせようとする運動は、じっくりねっちり“連載"中なんですよね。