消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(221)) 新しい金融秩序への期待(166) 日本の行方(5)

2009-09-17 08:34:22 | 野崎日記(新しい世界秩序)

 アメリカの金融界

  こういう背景で、アメリカは、投資銀行全盛時代になりました。そして何が起こったのか。

 まず、貸し手責任がなくなりました。商業銀行だったら、貸した責任者は返って来るまで、おちおち夜も眠れません。それが貸し手責任であります。ですから必死になって相手の企業をてこ入れしていきます。貸す時にも必死になって稟議書を回していきます。これが貸し手責任です。

 ところが、投資銀行は貸した瞬間に、その取り立てる権利、債権を証券化し、第三者に転売します。転売した瞬間に、自分たちは回収していく義務から逃れるのであります。これが第一の問題であります。

 第二の問題はレバレッジです。設備も人間もいらない、コンピューターがあればいい。お金は、何回も回転させればいいのです。他人さまのお金を借りてレバレッジをやって、大きくどんと儲けていくということが、また可能になっていきます。これを、当局は放置してきたのです。

 ロング・ターム・キャピタル・マネジメントという、ノーベル経済学賞受賞者を二人も抱えた会社が倒産しました。これは大変だというので、先物取引市場の長官は当時女性でしたが、その女性が、金融商品を取り締まろうとクリントン政権時代に訴えていました。そのころのアメリカの実業界も、投資銀行のあまりの悪辣さ品のなさに反発していて、その女性を支持しようとしていたのです。

 ところが、こんなことをするとアメリカは崩壊するぞと言った張本人がルービンであり、ルービンの子分のサマーズであり、サマーズの子分のガイトナーであります。この三人が寄ってたかって、デリバティブに規制をかける動きを潰してしまいました。一九九八年のことでした。以降、アメリカで、規制をしていくことは出来なくなりました。これが現在に繋がっているのであります。

 因みに、ルービンが行った最大の問題は、金融機関の銀行と証券と保険、この三つを区分けしなければならないという、一九三三年の「グラス・スティーガル法」を潰したことであります。これをルービンが一九九九年に潰してしまいました。そして、「金融近代化法」を作り、この三つが同時に運営されるようになり、その最初の適用会社がシティグループであります。そのシティグループのトップの経営者にルービンは着任いたしました。それは日本のいまの郵政・簡保どころの騒ぎではないのです。少なとも自分の作った巨大組織のトップに座ったのであります。

 怖いことを申しますと、そのルービンが、ハミルトン・プロジェクトというものを作っております。これは初代財務長官のハミルトンで、不遇の人でした。現在のアメリカの一〇ドル紙幣の肖像画であります。この不遇の人の名をとったハミルトン・プロジェクトを作りました。今度のオバマ演説のほとんどは、そのハミルトン・プロジェクトの内容であります。

 これは二〇〇六年四月、ブルッキングス研究所で、ルービンの名で発表されました。その時のこけら落としの演説がバラク・オバマであります。その当時は、まだ大統領候補でも何でもありませんでした。このルービンがオバマに演説させておりまして、ここでアメリカの知識人に対するアピールを行ったのです。二〇〇六年四月の段階で、もうオバマの流れは決まったと言ってもいいのではないかと私は思います。

 別にハミルトン・プロジェクトの内容が悪いと言っているのではないのですが、少なくともルービンとサマーズが作ったプロジェクトそのままの内容の演説をオバマが行ったということは重要です。

 私は、毎日新聞に依頼されて、オバマ大統領の就任演説を徹夜で聞きました。その前にハミルトン・プロジェクトを読んでいたものですから、演説を聞いたときにはびっくりしました。だんだん腹が立ってきました。私は随分辛口のコメントを、二時間ぐらい毎日新聞の取材でしゃべりました。一月二二日の『毎日新聞』に掲載してくれました。あの日、オバマ批判をやったのは毎日新聞の私の談話だけだったと思います。記者には、デスクでこれは潰されるぞと言ったのですが、よくぞデスクは掲載を許してくれたものです。感謝しています。

 
 アメリカの金融危機

 なぜオバマがGMにこだわるのか。GM関連の企業に雇用されている三〇〇万人の人間の雇用を確保するためだというのが口実ですが、一七〇億ドルもの巨大なお金を注ぎ込んだ見返りとして、「早くリストラをやれ」「首を切れ」でしょう。雇用確保が目的ではなかったのです。何が何でもGMを残さなければならないのです。

 これは何かと申しますと、ここが一番怖いのですが、皆さんがお聞きになっているCDSです。クレジット・デフォルト・スワップ。つまり、簡単に申しますと、GMが倒産すると思う人、GMが倒産しないと思う人とが、このCDSを賭けているのです。圧倒的な発行者はAIGです。AIGはもちろん倒産しないという方に賭けて、CDSを売りまくったのです。いざというときには支払ってさしあげますよと。しかし、いざということは起こらないから、売って稼げということです。

 一方、GMが倒産すると見た連中は、とにかくここでCDSを買っておけ、GMが倒産すれば、AIGから支払ってもらえるという判断です。実際に補償額が入ってくればCDSの購入費をはるかに上回ります。CDSが、GMが倒産するかしないかの賭けの手段に使われたのであります。例えば私は生命保険に入っています。私が死んだときに家族に迷惑をかけないために入っているのです。ところが、私の知らない第三者が、私に生命保険をかけたらどうなるか。私が早くうまく死んでくれたら、まんまと保険金をせしめて、その人は得をします。これなのです、CDSの怖さは。だから、これは金融における大量破壊兵器と言います。

 これが六〇兆ドル(約六千兆円)もあります。GM関連のものがもっとも多いのです。ですからGMを潰せば、AIGが破綻し、AIGの破綻が世界金融恐慌を瞬時にして起こすのです。

 AIGが国有化され、GMも国有化されるであろうことの理由はここにあるのです。よって何が何でもGMには梃入れしていかなければいけないんだという流れなのであります。とてつもなく巨額のお金が出されています。

 ニューディール政策という言葉をご存じでしょうが、昔はルーズベルトといい、最近はローズベルトと書かれる、そのローズベルトがニューディール政策でどれだけのお金を使ったかというと、わずか四九億ドルです。この数値は記憶しておいてください。それがニューディール政策なのです。それまでは、政府は民間に介入しないという約束だったのです。それが初めて介入しました。と言ったところで、わずか四九億ドルです。現在の金に直しても、計算の仕方はいろいろあるのですが、だいたい七五〇億ドル位です。その程度です。これがニューディール政策でした。

 オバマ大統領が約束したお金は三兆ドルです。ブッシュ時代からを入れますと、ざっと八兆ドルははるかに超すでしょう。オバマは、わずか一ヶ月で三兆ドルを約束したのです。しかし、三兆ドルを約束しても、株が暴落する。何故でしょうか。これだけのお金を出し、いまはとにかくスピードが大事なんだと言い、日本のマスコミは、オバマを積極果敢な人だと褒めています。しかしアメリカの株は下がります。理由は、何の具体策もないじゃないか、お金を出すだけじゃないかと投資家が見限っているからです。

 現在のアメリカの金融危機の根本は、投資銀行をどうするかということであります。そして、投資銀行のデリバティブ、金融商品が自由奔放に売り出されることに対して、何らの規制もなかったのです。FRBは監督しようにも監督できなかった。財務長官は、ルービンに代表されますように、それこそ投資銀行の親分であります。自分の首を絞めることはしないのです。

 いまのオバマ政権の重要人物が、サマーズであり、ガイトナーであります。金融の自由化を押し進めてきた張本人たちです。ですから、アメリカを奈落に導いた、その原因の除去をオバマ政権はやりません。お金さえ出せばいいんだという姿勢です。三兆ドルといったら凄い額です。アメリカのGDPは一五兆ドルです。一九二九年当時、アメリカのGDPの一六〇%ぐらいが借金でした。大恐慌で、その二年後には借金が三五〇%を超しました。

 すでにアメリカ自身が一〇兆ドル以上の借金を抱えておりますから、そのまま借金が累積されていくと、今年の終わりか来年の初めごろはGDPの五〇〇%ぐらいの借金の累積になっていくだろうと思われます。誰が払うのだということの処方箋もなく、金さえ出せばいいのだと。

 ですから、アメリカ人は、とくに金融機関は、不安に駆られるわけです。この膨大な金をどうするのかと。そして、経営トップは給料を下げるべきだと言われたら、ゴールドマン・サックスは、借りた金は返すからと、啖呵を切ったのです。

 こういう状況のもとで、お金が何に使われているのかが、全く追跡調査も行われていない。救済しなければならない不良債権はいくらあるのかの調査すら行われていない。何よりも、誰も犯罪に問われていない。その内に、オバマ政権の化けの皮が剥がれてくるだろうと思います。