消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(209) 新しい世界秩序(26)パックス・サイノ・アメリカーナの予兆(8)

2009-08-18 08:28:25 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 6 米国の中・韓・日・駐在大使


 米国ホワイトハウスは09年5月16日、オバマ大統領が次期駐中国大使にユタ州のジョン・ハンツマン(Jon Huntsman)知事を指名したと発表した。同氏は共和党員である。商務次官補代理(東アジア・太平洋担当)、駐シンガポール大使、通商代表部次席代表などを経て04年にユタ州現職に初当選し、09年で2期目であった。中国語に堪能で中国出身の養女もいる。共和党のホープとして2012年の次期大統領選への出馬も取りざたされていた(『毎日新聞』2009年5月17日付)。ハンツマンは、洪博培(Hong Bopei)という中国名を名乗っているほど中国通である。

 韓国大使、キャサリン・スティーブンス(Kathleen Stephens)は、子ブッシュ政権下の駐韓大使であるが、オバマ政権下でも留任している。ブッシュ大統領による指名は08年1月10日であるが、赴任は08年9月23日であった。スティーブンスは、1975~77年まで、忠清南道扶余(チュンチョンナムド・プヨ)で平和奉仕団員として勤め、韓国語を流暢に話す。シム・ウンギョンという韓国名も名乗っている。1978年に国務省に入った後、駐韓米大使館や釜山総領事館などに勤務した経験がある。05年6~7月にはクリストファー・ヒル(Christopher Hill)国務次官補の下で首席副次官補を務め、北朝鮮の核問題などに取り組んだ
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=94812&servcode=A00&sectcode=A20
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=105657&servcode=200&sectcode=200)。

 ブッシュ大統領から指名されながら、赴任が大幅に遅れたのは、米国の大使は上院の外交員会全員の承認を得なければならないのに、クリストファー・ヒル嫌いのサム・ブラウンバック(Sam Brownback)上院議員の強烈な反対に遭ったからである
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/601056)。

  オバマとスティーブンスとの直接的な接点はないが、就任直後のヒラリー・クリントン国務長官の訪韓を実現させて手腕をオバマが高く評価したからであるといわれている。

 駐中、駐韓大使について、ふさわしい人事であるのに対して、駐日大使指名の意味は不明である。

 オバマは、09年5月27日、次期駐日米大使に、08年大統領選で資金獲得に貢献した弁護士のジョン・ルース(John Roos)を指名したと発表した。上院の承認を経て09年夏に着任する見通し。

 しかし、駐中大使のハンツマンとは明らかにオバマの対応は違っていた。オバマが、09年5月16日に共和党のハンツマンを指名したさい、二人がそろって会見で発表したが、駐日大使はほかの英仏インドなど12か国・組織の大使とともに声明文の形式で発表され、「21世紀の課題に対処するため、米国外交を前進させることを確信している」と短くコメントしただけであった。

 ルースは、1985年にシリコンバレーで企業合併・買収を手掛ける国際法律事務所のソンシニ・グッドリッチ&ロサチ(Sonsini Goodrich & Rosati)に入り、05年から最高経営責任者(CEO)に就任していた。

 駐日大使人事では、クリントン国務長官らが推し、早くから名前が挙がった知日派のジョセフ・ナイ米ハーバード大教授(元国防次官補)から、ホワイトハウスが推すルースに差し替わった。ルースはオバマ陣営の有力な財務担当者で資金集めに貢献した「論功行賞」でもある」(http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20090528k0000e030022000c.html)。

 日本のメディアは駐日大使の人事に外務省が失望していると報じた。クリントン時代には、日米関係強化のためにハーバード大学教授のジョセフ・ナイ(Joseph Nye)を1994~1995年に安全保障担当国防次官補として起用し、この人がオバマで意見でも駐日大使として赴任するであろうと期待されていたからである。

 09年5月27日、資金集めの論功行賞人事、あるいは、金融界の大物として大使に指名された人は以下の通りである。

 まず英国大使に指名されたのは、選挙資金集めの最大の功労者で元シティグループ企業投資銀行(Citifroup Corporate and Investment Banking)副総裁のルイス・サスマン(Louis Susman)。71歳であり、電気掃除機と評されるほどの巨大な資金集めをした。

 フランス大使には、ジム・ヘンソン(Jim Henson Company)というIT事業会社の経営者で、金融アナリスト、さらにはホーム・セキュリティ・アドバイザー(13)のチャールズ・ルブキン(Charles Rivkin)が指名された
http://www.nytimes.com/2009/05/28/us/28envoy.html?_r=1&ref=world)。

 ドイツ大使に指名されたフィル・マーフィ(Phil Murphy)もゴールドマン・サックス重役で、オバマ選挙中の強力な集金マシンであった
http://www.asiankisses.de/?sc=goen22co&gclid=CImH6_7j3ZoCFYMvpAod2XmU0A

 09年6月10日付『ワシントンポスト』は、オバマ大統領の主要国大使人事を分析する記事を掲載し、過去の大統領に比べて選挙資金集めの大口貢献者への「論功行賞」の傾向が強いと指摘した。同紙によると、駐日大使のルースが過去3回の選挙で民主党候補に54万5000ドル(約5300万円)の献金を集めたのに対し、クリントン大統領時代のモンデール駐日大使(元副大統領)は1万2500ドルだった。

 また、駐英大使も、上述の投資銀行家サスマンは、過去3回の選挙で73万5000ドルを集めたが、クリントン政権時のクロウ大使は元軍人で選挙献金集めに携わらなかった。カナダ、イタリア、スペインなど主要国大使人事で軒並み、選挙献金の論功行賞の傾向があるという。そもそも、クリントン政権の大使人事は、献金による功労で大使になっても、赴任先は小国に限られていた。これ対してオバマは公然と集金功労者を重要国大使に任命してしまっているのである


 朝鮮の核脅威を鎮めるためにも、さらに、米国の金融危機を乗り越えるためにも、オバマは中国の協力を必要としている。