
『酒場詩人の流儀』
吉田類著、中央公論新社(中公新書)、2014年
ここしばらく読んだものの中から、きちんとしたレビューを書けないままだった本を、印象に残った一節とともに何冊か(短い記事ではありますが)ご紹介したいと思います。
まずは、日本各地の酒場飲み歩きをライフワークとしている吉田類さんの最新刊『酒場詩人の流儀』です。1年のほとんどを旅から旅への日々の中で過ごしているという類さんが、旅先での自然と人びととの出会いをすくい取った、地方紙連載の紀行エッセイをまとめたのが、本書です。
その書名と、テレビで目にする陽気に酔っぱらった類さんのイメージから、酒場でのエピソードを面白おかしく書いたものかと思いきや。選ばれた言葉でしっかりと綴られたエッセイの飲み口、もとい、読み口はまことにしみじみと、気持ちに沁み渡ってくるような滋味深さがあります。
人と自然、そして動物たちへと向けられる、類さんの暖かい視線はとても魅力的です。そこから紡ぎ出される言葉からは、自然と人間との望ましい共存のありかたが、押し付けがましさを伴うことなく読む者に伝わってくるように思いました。ネコ好きの端くれとしては、かつて飼っていたネコとのエピソードにホロリといたしましたねえ。
何より魅力的だったのは、しがらみや固定観念にとらわれることのない類さんの姿勢でした。そんな姿勢を表すようなこの文章が、とりわけ気持ちに沁みてきました。
「よく人生を登山になぞらえる。きっと、上り下りを繰り返しての道程がつきものだからだ。恒例となった高尾山ハイキングコースも、息苦しい樹林帯を抜けるとパノラマの視界となるピークへ立てる。周囲の峰々を一望すれば、高低さまざまなることに気付く。人の営みもしかり、勝ち組もあれば敗者もいる。自分の目指した頂きは、北アルプスのような華麗さなのか、それとも何の変哲もない里山だったのか。ま、それはどちらでもかまわないし、無理なルート変更などしなくていい。」
ついつい、ナニゴトかにとらわれながら、あくせくした生き方をしてしまいがちなわれわれオトナたちに、「理想の大人」としての生き方をさりげなく示してくれるような•••そんな一冊でありました。飲み歩くことだけではなく、そういう生き方も学びたいものだなあ。
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