読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】『はしれ ディーゼルきかんしゃデーデ』 どんな困難も、力を合わせれば乗り越えられる。

2018-03-10 16:04:43 | 本のお噂

『はしれ ディーゼルきかんしゃデーデ』
すとうあさえ=文、鈴木まもる=絵、童心社、2013年


かつては福島県の郡山と新潟を結ぶ磐越西線で活躍していた、ディーゼル機関車の「デーデ」。その後は活躍する機会も減り、山口県でセメントを運ぶ仕事をしていたデーデでしたが、ある日突然電気機関車につなげられて新潟へと連れて行かれます。東日本大震災が起きてしばらく経ったころのことでした。
震災で大きな被害を受け、電気などのインフラもストップしていた東北の被災地では、重機や自動車を動かすために、そして避難所で厳しい冷え込みにさらされる人びとを暖めるために必要な、燃料の輸送もままならない状況でした。そんな被災した地域に燃料を運ぶため、デーデに白羽の矢が立ったのです。かくてデーデは、仲間のディーゼル機関車との2台連結で燃料タンク10両を引っ張り、新潟から郡山に向けて出発します。被災した地域と人びとに、燃料と希望を届けるために・・・。
震災から15日後の2011年3月26日、夜を徹して東北に燃料を届けたディーゼル機関車の実話をもとにしたのが、この絵本です。

車列の先頭に立ち、正面に「たちあがろう東北」と記されたプレートを取りつけて走った「デーデ」。窓のところに丸いワイパーがついた「ゴク」。それらより一回り小さいながらも、2両を助ける活躍ぶりを見せる「イト」。いずれも東北への燃料輸送で活躍した、実在するディーゼル機関車です。作中では擬人化されたキャラクターとして描かれていますが、鈴木まもるさんの絵はそれら機関車を忠実に、ディテール感も豊かに描き出しています。
いまではすっかり、活躍の機会が少なくなってしまったディーゼル機関車。外見は無骨でお世辞にもスマートとはいえず、スピードが速そうにも見えないそれらの機関車たちが、雪の降りしきる暗闇の中、10両の燃料タンク車を引っ張って郡山へと向かって進んでいく場面を見ていたら、じんわりと目頭が熱くなるのを感じました。ディーゼル機関車たちが困難な状況のもとで、被災した地域にとっての命綱であった燃料を運ぶために踏ん張っている姿には、胸を打たれずにはいられません。
困難な状況の中で踏ん張っていたのは、ディーゼル機関車だけではありません。夜を徹して機関車を運転していた運転士さんたち。「デーデ」たちの点検と整備にあたった整備士さんたち。本書は、それらJR貨物の人びとの働きにも、しっかりとスポットを当てています。
作者のすとうあさえさんは、本書の取材で聞くことができた、JR貨物の方の言葉を「あとがき」に記しています。

「物が届くことは、当たり前。私たちは縁の下の力持ちなんです」

普段は「当たり前」だと気にも留めないけれども、非常事態のときになって初めて、そのありがたみを感じさせられる公共インフラの1つである輸送機関。それを支える人びとの使命感と心意気にもまた、胸が熱くなります。

東日本大震災から、明日でちょうど7年。昨今は震災の記憶の風化がしきりに叫ばれるようになっています。忘れてはいけないこと、忘れようにも忘れられない記憶が厳然としてある一方で、つらい記憶が薄らいでいくことで、前に向かって進んでいける面もあるというのも、また確かでしょう。
ですが、数多くのかけがえのない存在が失われたことと共に、困難な状況に力を合わせて立ち向かった存在があったということは、これからも忘れられることなく語り継がれていってほしい・・・そう願うのです。
どんな困難も、皆が力を合わせることで乗り越えることができる・・・。そんな勇気と希望を伝えてくれる『はしれ ディーゼルきかんしゃデーデ』も、多くの人に読み継がれていってほしい一冊です。


【関連オススメ本】

『命をつなげ 東日本大震災、大動脈復旧への戦い』
稲泉連著、新潮社(新潮文庫)、2014年(親本は2012年に『命をつないだ道 東北・国道45号線をゆく』の書名で新潮社より刊行)

宮城県仙台市から青森県青森市を結ぶ東北の大動脈、国道45号線。震災による津波で大きな被害を受け、救助や救援にも支障が出る事態となっていた道路の復旧に、自らの命を賭して挑んだ人びとのドラマを記録したノンフィクションです。こちらも困難な状況の中、インフラを守るべく力を合わせた人びとの使命感と心意気が胸を打つ一冊です。
現在は単行本、文庫版ともに品切れとなっておりますが、埋もれさせるにはあまりにも惜しい本ということで、あえてここに挙げておきたいと思います。


『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』
佐々涼子著、早川書房、2014年(2017年にハヤカワ・ノンフィクション文庫に収録)

日本の出版物に使われる紙の生産を担ってきた、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場。津波により壊滅的な被害を受け、再開も絶望視されていた工場を、わずか半年で復旧、再開させた人びとの戦いを描いた傑作ノンフィクションです。こちらも、力を合わせて困難な状況と戦い、乗り越えた人びとの記録として、末永く語り継がれてほしい一冊です。
ハードカバー版にも、そして昨年刊行された文庫版にも、石巻工場で生産された紙が使われております。ぜひとも、紙の風合いと質感を味わいつつお読みいただけたらと思います。拙ブログの紹介記事はこちらを。→ 「‪【読了本】『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』 苦難を乗り越え、つながったものの重さと大切さ‬」


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