読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

NHKスペシャル『神秘の球体 マリモ ~北海道 阿寒湖の奇跡~』を観て

2014-08-25 07:39:36 | ドキュメンタリーのお噂

NHKスペシャル『神秘の球体 マリモ ~北海道 阿寒湖の奇跡~』
初回放送=8月24日(日)午後9時00分~9時49分
語り=柄本明、高橋さとみ
製作=NHK釧路・札幌放送局



かつては日本やヨーロッパを中心にした北半球のあちこちに群生していたものの、環境の変化により一気に群生地を減らしてしまった、マリモ。
そんな中で、いまや世界で唯一のマリモ群生地となったのが、北海道の阿寒湖北部の入り江です。なぜそこでマリモは群生し、かつ真ん丸な形をして生き続けているのか。番組は特別な許可のもとで水中に設置したカメラにより、長期にわたってその生態を記録し、マリモの謎に迫っていました。

そこからわかってきたことは、マリモはその場でくるくると回転しながら全体にまんべんなく日の光を浴びることで、均等に成長することができる、ということでした。また、真ん丸なカタチには、表面に寄生して光合成を阻害してしまう水草を取り除く効用もありました。群生している仲間たちとこすれ合いながら回転しているうちに、表面の水草が取れていく、というわけです。
カメラはさらに、これまで知らなかったマリモの生態をしっかり捉えていました。マリモは回転しながらときおり場所を移動させることで、下のほうに埋れている仲間たちにも日の光を「分かち合って」いたのです。そんなマリモたちの共生生活はかなり興味深いものでした。

そしてより興味深かかったのは、マリモは5~7年の周期で打ち上げられ、壊されたのちに再生していく、というサイクルを繰り返している、ということでした。
冬の時期に吹く強い風により打ち上げられ壊されたマリモは、朽ちたり白鳥のエサになったりしてしまった挙句、氷に閉じ込められます。しかしそれを生き延びたマリモの破片は、春になるともとの群生地へと戻っていき、そこで再び成長、再生していくのです。そんなマリモの生のサイクルには驚かされるとともに、ある種の感動も覚えました。

マリモの群生地である入り江は、光合成に必要な日光が豊富な夏に、風速7メートル前後の強過ぎず弱過ぎない風が吹き、5キロ離れた小さな湖の底から湧き出すきれいな水が流れ込むことで、マリモが生息しやすくなっているという場所でした。
番組では、かつては2000万個ものマリモが生息していたという、アイスランドの湖を取材していました。そこは工場からの排水により水質が悪化したことで、湖底の泥を固める働きをするユスリカの幼虫が激減し、そのことでマリモも球形になることができないまま激減したといいます。
ちょっとした環境の変化にも敏感で、下手をすれば一気に数を減らしてしまうというマリモにとって、阿寒湖は本当に貴重な場所だったのです。

マリモを育む阿寒湖の自然が、いかに絶妙かつ貴重なものなのかを再認識させてくれた番組でありました。
が、もっとも印象に残ったのは、釧路市でマリモを研究しておられる男性が真っ二つにしていたマリモが、その内部まで美しい深緑色をしていたこと、でした。
あの緑こそ、実に神秘的だったなあ。