河野美砂子の「モーツァルト練習日記」+短歌+京都の日々の暮らし

7/27(土)13時30分 NHK文化センター京都 ショパン「マズルカ」Op.59全曲、「バラード第3番」等

アマデウスへの手紙・4

2006-10-06 00:44:59 | アマデウスへの手紙
モーツァルトさん、こんにちは。

今日は、K.330、ハ長調ソナタ、第1楽章について書くことにします。

この第1楽章、Aallegro moderato を弾くたび、私は、私の師匠、故・井上直幸先生を思い出します。直幸先生は、かの吉田秀和氏も何度か時評で取り上げられた魅力あるピアニストでしたが、私にとって先生との出会いは、長いピアノ人生の中においては一番のショックな出来事でした。

ピアノを弾くこと、あるいは音楽っていうのは、こんなに心躍る、何にも替え難い、本当に魅力的なものなんだ、ということ。

それを身をもって示してくださった方です。

直幸先生が登場するまでの(日本の)クラシック音楽界は、なんというか苦渋に満ちていて、音楽は厳しい道であり、演奏者も聴衆も笑ったりすること厳禁、みたいな雰囲気で一杯でした。

そこに直幸先生が登場。

ドイツ・フライブルクから帰国したばかり、若く自由な感覚でにこにこしながらピアノを弾く。教育TVのピアノレッスンでは、「こ~んなにきれいに弾けるじゃない?」とか言って、小学校低学年の子といっしょに音楽を心から楽しむ。
音楽に対する「愛」があふれていました。
ほんと、私の人生変わりましたョ。

その直幸先生のピアノ演奏の魅力がもっとも輝いたものの一つが、このソナタだったと思います。
喜び、と言ってしまうとそれで終わってしまうのですが、とにかく、冒頭から提示部終わるところまでは、弾くのがうれしくてたまらない。

冒頭の左手も、ト音記号で書いてある(音域が高い)→かろやか。
今、気づいたけど、バスはずっと「ド」で、ハーモニーは、トニカⅠと、サブドミナントⅣばっかり。 7小節目にやっとカデンツ、ドミナントⅤが登場するのですね。

でも、このソナタのすごいところは展開部。

左手は、冒頭と同じような高さ、音型。 つまり、かろやかで音の少ない、薄いバス。ところが、こんなに音が少ない(実際、この展開部は他のどのソナタより音が少ないと思います)のに、なんとみごとに転調していくのでしょう!

ト長調→イ短調→ト長調→イ短調→ヘ長調→ニ短調→ハ短調→ハ長調→再現部

半音がとてもデリケートに推移していく。
グラデーション。

これって、わたし、シューベルトの転調とか、ドビュッシーのビミョウな陰影の移り変わりをすぐに思い浮かべます。たくさんの音で転調していくのはまぁ普通だけど、こんな最小限の音で、こんなにカラーが変わっていくなんて、ほんっとに美しい。

この展開部で、冒頭にこにこしていた人には、実は深い陰影があるのだということ、それを、小さな声で、必要最低限の音で告げている。

たいせつなことは、小さな声で言うのですね。

……

モーツァルトさん、長くなってしまいました。

文章だって、短く、たいせつなことだけを言えればいいんですけど、ついついおしゃべりしてしまいます。また明日書きます。

あ、最後に。

わたし、井上直幸先生の「精神的一番弟子」に、密かに立候補してるんです。
音楽に対する敬愛の気持ち。
これを先生から受け取りました。

もち、モーツァルトさんからも、たくさん「愛」もらってますよ。♪

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