実務家弁護士の法解釈のギモン

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「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(5)

2019-08-07 10:24:34 | 会社法
 ところが、ものの本によると、元引受証券会社が財務計算に関する部分について単に虚偽であることを知らないだけで免責されるのは不合理であるかの如くに論じる本がある。つまり、財務計算に関する部分についての虚偽記載(すなわち粉飾決算)であっても、元引受証券会社は責任を負わせたいというのであろう。そして、仮に有価証券届出書の財務計算に関する部分の虚偽記載について特別の規定たる元引受証券会社の責任を問えなくても、目論見書の使用者の責任でまかなえるというのである。
 つまり、金融商品取引法には、有価証券届出書の虚偽記載における賠償責任とは別の賠償責任に関する規定があり、虚偽記載のある目論見書を用いて有価証券を投資家に取得させた者も、有価証券を取得した投資家に対して損害賠償責任を負うと定めており、元引受証券会社は当然に目論見書を投資家に交付して販売するのであるから、有価証券届出書の内容がほぼそのまま網羅されている目論見書の財務計算に関する部分に粉飾があれば、この規定で元引受証券会社に賠償責任を認めることができるというのである。

 ただし、目論見書使用者の責任も、相当な注意を用いても虚偽記載を知らなかった場合は免責事由となっていることに注意を要する。