実務家弁護士の法解釈のギモン

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改正債権法における取消後の第三者(5)

2018-10-24 09:54:25 | 民法総則
 似たような議論ではないかと思っている議論として、かつて、無効行為を取り消すことが出来るか、という議論が存在した。例えば、騙されたことによって要素の錯誤に陥った場合、そもそもその意思表示は錯誤無効となる可能性もある。そうだとすると、意思表示そのものが無効である以上、詐欺取消は出来ないのではないか、といった議論である。いかにも自然科学的発想である。
 しかし、この議論は、既に克服された議論であって、錯誤無効も詐欺取消も、要は表意者を保護するための規定であるから、いずれの主張をしようが、表意者が自由に選択できるというものである。自然科学的発想は捨てて、無効行為といえても無効を主張しないまま取り消すことができるのである。

 状況は異なることは確かであるが、取消権行使により、自然科学的発想のように意思表示が遡及的に消滅したと言ってみても、詐欺による意思表示は現になされたのであり、たとえ取消権を行使したと言っても、詐欺による意思表示の痕跡は残るのであるから、自然科学的発想をそのまま貫くべきところではないと思うのである。その痕跡を信用した第三者を保護する必要性が取消の前後で変わらないと思われる以上、自然科学的発想は捨てて、96条3項という同じ条文を使えばいいだけのことである。自然科学的発想にこだわりすぎてはいけないという意味では、無効行為の取り消しの可否の議論と似たような側面を持っているように思う。
 
 いずれにしても、債権法改正後の場合という限定付きではあるが、詐欺取消後の第三者も96条3項でよいという学説を見つけ、私は心強い味方が出来たと思っている。今後、学者の議論も少しは変わっていくだろうか。