Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Tony Kosinec

2007-01-03 | SSW
■Tony Kosinec / Consider The Heart■

 あけましておめでとうございます。
 今年初めて聴いたレコードは、Tony Kosinec の Consider The Heart です。 前回取り上げた Ron Baumber の流れを考えてという以外の特段の理由はありません。
 とはいえ、久しぶりに聴いたので、個々の楽曲の記憶がかなり曖昧だった(というよりは、むしろすっかり忘れてしまっていたに近いです)僕には、ちょうどいい塩梅でした。 お正月のゆったりした時間をもてあましそうになった夜にはぴったりだったのです。

 さて、このアルバムはリアルタイムではカナダのスマイル原盤をライセンスした国内盤レコードが発売されていたのですが、その後すぐに廃盤。 近年、Tony Kosinec のアルバムが相次いで CD 化されたにも関わらず、このアルバムだけは未 CD 化となっています。 そのせいもあってか、過大評価されている節があるような気がします。 今回、そこを冷静に見極めてみたいと針を落としてみました。

 A 面はアルバムのオープニングを飾る序曲のような位置づけの小曲「Your Constant View」からスタート。 曲間もなく続く 2曲目の「Heart Of A Small Business」は、個人的にはアルバムで最も好きな曲。 「好きな」というよりは「しっかり覚えている」と言った方が正しいですが、♪Why Do People Die♪と歌うサビの部分が耳に残ります。 このサビに来るまでのメロディと多彩なアレンジはこのアルバムの特徴のいい部分を凝縮していると言えるでしょう。 しかし、この重たいテーマをサビに持ってくるあたりは、メジャーレーベルを離れて自由な創作活動に没頭していた Tony Kosinec の心境が強く表現されているのではないでしょうか。 「These Fine Lovers」は、Tony Kosinec の荒々しい側面が現れた曲です。 強と弱、激しさと繊細さ、エモーションとクールといった感情の起伏をストレートに表すのは彼の特徴的なスタイルなのですが、この曲もそういった曲です。 つづく「New York Itself」はさらにエモーショナルな側面が強調され、声量さえあればロックボーカリストになれたのに、という感想を抱いてしまうようなロック寄りの楽曲となっています。 A 面ラストの「Youngblood Alan」は、淡々とした曲ですが、Alan や Kessler といった彼の身近な人物が歌詞に登場してきます。 Kessler はプロデューサの Syd Kessler のことですが、「Youngblood Alan」のAlan はクレジットがありません。 ブックレットに「Youngblood Alan as himself」と書かれた男の写真が載っているのですが、この男がどういう人物なのかを知る術はありません。 ちなみに、この曲は Tim Curry のアルバム「Read my Lips」で単に「Alan」としてカバーされています。

 B 面は難解な曲の連続です。 そして、このわかりにくさがこのアルバムのイメージを作り上げているように感じます。 クリスマスのラブソング「December 24th」の仰々しく展開していく様はミュージカルのよう。 このような展開は好き嫌いの分かれるポイントの一つでしょう。 つづく「Banging On A Nail」は更にわかりにくい曲です。 めまぐるしく変化する曲調に覚えにくいメロディの組み合わせで、組み手の無い相手という印象です。 このような SSW として他に思いつくのは Andy Pratt くらいです。 「Lilly」には、♪So It’s Time To Consider The Heart♪ という風にアルバムタイトルになった言葉が含まれている曲ですが起伏のないメロディが続くこれまた難解な曲です。 ラストの「All Things Come From God」はタイトルからしてクリスチャン・ミュージックのよう。 アルバム唯一のシンプルで繰り返しの多い曲なのですが、さりげないエレピのセンスが重要なファクターとなっています。

 さて、そんな風にアルバムを聴き終えて感じることは、このアルバムは若き Tony Kosinec が通過しなくてはならなかったプロセスなのだろうということです。 具体的には、Columbia Records の 2枚では Peter Asher などの大物プロデューサーやメジャー・レーベルという環境では思い通りにならなかったものが彼のなかで「シコリ」となっていて、そこから自身を解き放つために、このような自由奔放なアルバムを作らざるを得なかったのではないでしょうか。 そのためにはレーベルを移籍する必要もあったのでしょう。 ところが、このアンチ商業主義的なアルバムは批評家連中には評価されたものの、一般的にはまったく受けずにセールスも伸びなかったのです。 Tony Kosinec はこのアルバムの不振からしばらくアルバムを発売できなかったのですが、4 枚目以降の「Almost Pretty」や「The Passer By」に収録されているシンプルで覚えやすい楽曲(「Any Other Way」が好きなのです)は、単に時代の投影ではなく、Tony Kosinec 自身の「振れ幅」の反動によるものだと僕は思っています。 

 ということで、個人的には 1970 年代の Tony Kosinec の最高傑作は、この「Consider The Heart」ではなく、前作の「Bad Girl Songs」だと思います。 「Bad Girl Songs」は CD になったおかげで聴いた回数が多いということもありますが、短めでポップな曲が多く、何よりも親しみやすいという点を評価したいと思います。
 いっぽう、この「Consider The Heart」は哲学的な色彩もあいまった前衛的な SSW アルバムといったところでしょうか。 こんな安っぽい表現しか思い浮かばない自分が情けないなあ。

 

■Tony Kosinec / Consider The Heart■

Side-1
Your Constant View
Heart Of A Small Business
These Fine Lovers
New York Itself
Youngblood Alan

Side-2
December 24th
Banging On A Nail
Lilly
All Things Come From God

Produced by Syd Kessler and Tony Kosinec for April Second Productions
All Songs Written by Tony Kosinec

Tony Kosinec : guitar , harmonica , moog ,vocals
Peter Alves : drums , guitar , vocals
Fred Mollin : bass , guitar , vocals
Howard Wiseman : cello , organ , moog
With help from
Rick Capreol : electric guitar
Richard Green : violin
Ian Guenther : violin
Ben Mink : violin , electric guitar
William Moore : pedal steel
Kim Palmer : piano , moog , vocals
Sy Potma : vocals
Paul Shaffer : vocals
Jack Zaza : bass

Smile Records SMS-1