Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Susan Pillsbury

2006-04-19 | SSW
■Susan Pillsbury / Susan Pillsbury■

 愛おしいアルバムです。
 Sweet Fortune Records がこの世に残してくれた宝物。 それが謎の歌姫 Susan Pillsbury です。 このアルバムが在ると無いとでは、レーベルの意味合いが随分と違ったものになったでしょう。 
 このレコードとの出会いは、1990 年台初頭だったと思います。 この名前とジャケットでイギリスの SSW に違いないと思ったものでした。 クレジットもレーベル名も特に気にすることなく即買いしたものです。
 そんな Susan Pillsbury が 1973 年に発表した唯一の作品が、このアルバム。 ジャケットだけでなく、その内容もまた淡くはかないもので、聴くたびに彼女のその後の足取りを追ってみたい衝動に駆られてしまいます。
 久しぶりにアルバムに針を落としました。 オープニングを飾る「Brown Eyes」はちょっとブルージーなサウンドで、Susan Pillsbury のボーカルも線の細い Maria Muldaur みたいに聴こえます。 とはいえ、ジャケットの印象とはかけ離れたものではない、オールド・タイミーな雰囲気の楽曲です。 初めて聴いたときには、この雰囲気がこのアルバム全体を包み込むものかと思っていました。 しかし、以降は曲調も彼女のボーカルも、次第に翳りを帯びてきます。 「Never Say Goodbye」は、ギターのアルペジオ、重ためのストリングスのなかで彼女の声はあまりにもはかなすぎてカゲロウのようです。 続く、名曲「Heaven」では、さらにその世界が強調されていき、’It Must Be Heaven’ と歌われるサビの部分など、いまにも途切れてしまいそうな歌声です。 一言で「暗い」といってしまえば簡単なのですが、彼女の声に込められているものは怨念のようなものではなく、あきらめとか絶望に近いように感じます。 「Highway」も、その儚い路線が、アコギのアルペジオとパーカッションによって支えられていきます。 「Love Never Dies」も、ギターのポロロンとした爪弾きのうえに、せつないボーカルが重なる名曲。 失恋の歌なのでしょうが、Susan Pillsbury は、今にも壊れてしまいそうです。
 B 面は、幾分元気を取り戻した「I Thought I Knew The Answers」で始まります。A 面で繰り広げられた「心の翳り」がいったん回復したかのように、ボーカルにも伸びが感じられます。 続く、「It’s Hard To Be Easy」も Susan のアルトのボーカルがいつになく存在感を示し、サビもしっかりした曲となっています。 アコースティックなサウンドは、 Everything But The Girl がカバーすると似合うような気がします。 しかし、「Joe And Luther」になると Susan は次第に元気をなくしていきます。 鼓笛隊みたいなパーカッションをバックに淡々と歌われるの曲なのですが。 「You Found Me」ではアルペジオのイントロにストリングスが重なるという A 面のはかない路線に完全に戻ってきた感じです。 曲調は古い映画の挿入歌みたいで、なぜか「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出してしまいました。 ラストの「Goodnight」は、セピア色の景色のなかで、Susan との永遠の別れを感じる曲です。 2 分にも満たない小曲なのですが、Goodnight を 3 回ずつ、計 6 回繰り返すだけの歌詞とともに、このアルバムは終焉を迎えます。 
 アルバムを聴き終わったあとに残る、このもやもやした思いは何なのでしょうか? とても薄幸に見えてしまう裏ジャケットの本人の表情をじっと眺めながら、このアルバム以降の彼女の人生のことをひとり妄想してしまう自分がいるのです。 「Never Say Goodbye」、「Heaven」、「Love Never Dies」といった曲で表現された極限の哀しみは、決してフィクションではなく、本人の人生そのものだったのではないかと思ってしまうのです。 「今でもそこにあなたがいたら、僕は何と言うだろう」...僕はそんな歌詞の歌を中学生の頃聴いていましたが、このアルバムを聴くたびに、そんな気分にさせられ、ちょっと胸が痛くなってしまうのです。

 さて、ちょっと冷静になってクレジットを見てみましょう。 残念なことに、このアルバムには参加ミュージシャンやレコーディングスタジオなどの情報が一切ありません。 Joe や Bob のときには、曲の簡単な解説コメントが載っていたのですが、それも無くなっています。 それだけで、前 2 作の延長線にはないことが予想できます。 そんな情報の不足のなか、まず気になるのはプロデューサーである Mike Berniker です。 Joe Droukas や Bob Sanders のプロデューサーはEddie Jason でしたが彼のプロフィールはよくわからないままでした。 一方、Mike Berniker のキャリアは古く、1963 年には Barbra Streisand の、1968 年には Brenda Lee のプロデューサーとして名を残しています。 Susan Pillsbury のプロデュースをするころには、彼はもうベテラン。 しかも新人の Susan とはどのようにして知り合い、プロデュースすることになったのでしょうか? そのあたりの経緯を知る術はありません。 ちなみに、Mike Berniker のキャリアは長きに渡ったようで、1970 年代には、Miles Davis や Al Di Meola のアルバムにプロデューサーとしてクレジットされているほか、 Broadway Musical のサントラ盤などにも多くクレジットされているようです。 彼は本来は、Jazz 系のプロデューサーだったのでしょう。 こうしたことから、このアルバムのバックミュージシャンも彼の人脈から借り出されたニューヨークのスタジオセッションマンだったと推測します。 そのなかで最も重要な役割を担い、自らもギターで参加したのが、Jay Berliner です。 彼のことも調べてみましたが、1972 年に Mainstream Records からソロアルバム「Bananas Are Not Created Equal」を発表していました。 このアルバムには、Gordon Edwards とCornell Dupree という Stuff 人脈が参加していることも注目ですね。 どうやらこのアルバム、JAZZ 系の DJ には人気のディスクのようなのですが、早めに聴いてみたいと思っています。 
 Mike Berniker は ASCAP のホームページで 2002 年 11 月頃に写真入で掲載されていました。 おそらく今も健在なのではないかと思います。 どなたか連絡先を訪ねて、Susan Pillsbury の謎を解き明かしてくれないものでしょうか?



■Susan Pillsbury / Susan Pillsbury■

Side-1
Brown Eyes
Never Say Goodbye
Heaven
Highway
Love Never Dies

Side-2
I Thought I Knew The Answers
It’s Hard To Be Easy
Joe And Luther
You Found Me
Goodnight

Produced by Mike Berniker for 400 Entertainment Corp
Musical Direction : Jay Berliner
Strings and Reeds Arranged by Mike Berniker and Jay Berliner
Engineering : Frank Laico and Arthur Kendy

All selections written by Susan Pillsbury except ‘You Found Me’ by Donna Cribari
Photography : Hank Dunning
Design : Fred Marcellino
Art Direction : Bill Levy

Sweet Fortune Records SFS-804






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