Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Carlson Roberts

2011-02-20 | SSW
■Carlson Roberts / Sketches■

  アメリカ北西部に位置するワシントン州の州都オリンピアのマイナーレーベルから 1984 年にリリースされた Carlson Roberts のアルバム。 詳しいキャリアや風貌すらも分からない謎だらけの Carlson Roberts ですが、おそらくこれが彼の唯一のアルバムだと思っています。 歌詞カードやクレジットにもう少しヒントを残してほしかったところですが、唯一ベースで参加している Bruce Whitcomb だけは、ジャズ界で多くのレコーディングに参加しているセッション・ミュージシャンと同一ではないかと思われます。

  さて、外見からはそのサウンド指向を想像するのが難しいレコード。 どこにでもいそうな SSW でありながら 1970 年代のウェストコースト風のサウンドとは明らかに一線を画しています。 これと言って特徴のないアレンジやサウンドに、リバーブのかかった浮遊感のあるボーカルが重なってくる曲調が多く、それらが何もなかったかのように淡々と進んでいくのです。 音楽を通じて何かを伝えたいという気持ちが、ほとんんど感じられない無機質な感覚が、このアルバムの最大の特徴だと思います。 

  アルバムの冒頭を飾る「Sketches」は耽美的なサウンドがまるでフレンチ・ポップスのように聴こえる印象的な楽曲。 以前、フランス映画で似たような主題歌があったような気がするのですが、思い出せませんでした。 ニルソン風のポップ・ソング「Everyone’s An Artist」、物憂げなバラード「Diary」、スロウなソフトロック調の「If I Could Live On Your Love」と淡々とアルバムは進行。 「Sneakin’ Away From L.A.」では、イギリスの同時代のネオアコに近いサウンドに頼りなげな薄いボーカルが絡み合います。

  B 面に入ると、Carlson Roberts の多様性がより強く表れます。 清々しいマイナスイオンに包まれたかのような「David’s Song」、落ち着きのあるカフェ・ミュージックのような「Bedtime Ends Each Day」まではオーソドックスな展開が続きますが、ここから展開は大きく変化していきます。 荒削りなバイオリンの音色で始まる「School Of Hard Knocks」は明らかに場面を変わってくる印象です。 しかし、その方向性は定まっていませんでした。 つづく「Old Golden Words」は、一転してピアノとバイオリンのアンサンブルが中心となった美しい楽曲。 ボーカルパートがほとんどが無く、それだけにアルバムのなかで際立った気品と完成度を感じさせます。 間違いなく、このアルバムを代表する最高の 1 曲と言えるでしょう。 つづく「Trumpet Sketches」はタイトルが明示しているようにオープニングの「Sketches」がニニ・ロッソのように演奏されるインスト。 ダサいシンセのアレンジも加味されて、ここまで誰のアルバムを聴いてきたのかすら忘れてしまいそうです。 しかし、このラスト 2 曲の危うい配置は何を目論んでいるのでしょう。 あっさりしたフェードアウトとともに、不安感や欠如感を残して、アルバムは幕を閉じて行きました。

  こうしてアルバムを通して聴いてみると、このアルバムの特異な立ち位置を改めて痛感します。 存在感といえるほどの個性は無いし、人の心を揺り動かす強烈な重力もありません。 さきほど欠如感という言葉を使いましたが、ここには何かが足りないのです。 しかし、もしかするとそれは充足した世界のリスナーからみた一方的な感想かもしれません。 そもそも、Carlson Roberts にはリスナーのことを意識するということは無かったし無意味だったのに違いありません。 自主制作ならではの自由奔放な創造がこのレコードには存在し、それは奇妙な違和感を伴って忍び寄ってくるのです。

■Carlson Roberts / Sketches■

Side 1
Sketches
Everyone’s An Artist
Diary
If I Could Live On Your Love
Sneakin’ Away From L.A.

Side 2
David’s Song
Bedtime Ends Each Day
School Of Hard Knocks
Old Golden Words
Trumpet Sketches

Produced by Robert and Margie Anderson

Background vocals : Nathan Anderson, Kathy Anderson, Robert werner, Carlson Roberts
Drums : Scotty McDivott
Bass guitar : Bruce Whitcomb, Blaine Allan
Bass Syntho : Bruce Whitcomb
Guitar Parts acoustical, acoustical 12 string and electric : Michael Patrick
Syntho all : Bruce Whitcomb
Clavichord : Geno Keys
Piano : Geno Keys, Margaret Smith
Fiddle and violin : Everlyn Hall
Trumpet : Greg Allison
Arrangements : Anderson , Whitcomb and Patrick

Olympic Gold Records


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