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フリオ・リャマーレス『狼たちの月』

2014-02-18 13:05:00 | ノンジャンル
 フリオ・リャマーレスの'85年作品『狼たちの月』を読みました。
 「第一部 1937年」ラミート、その弟フアン、ヒルド、そしてぼくアンヘルの4人は反フランコ軍の残党として、山岳地帯を点々と移動していた。ぼくは家に戻り妹のフアナに、今夜お父さんと会いたいと伝えてほしいと言った。その晩、指定した場所に行くと、フアナしかいず、お父さんは今日の午後連行されたと言う。翌朝釈放されたお父さんに会いに行くと、お父さんは自分が何をされたのかについては口を閉ざし、ぼくに金を渡し、しばらく廃坑に身を隠すように言った。数日後、ラミーロとヒルドは物資調達のため、ヒルドの家に向かった。ヒルドは長い間妻のリーチに会っていなかったし、生まれた息子の顔もまだ見ていなかった。フアンは自分だけがまだ山を降りていないということで、母さんに会いに行くことになった。しかしフアンは1日経っても戻ってこなかった。われわれは粉引きのトマスを訪ね、フアンのことを尋ねたが、何も聞いていないと言う。トマスはフアンの実家を訪ねると、実家にもフアンは来なかったということだった。3人は次の目的地に向けて山の開けたところに出たとたんに、至近距離からの一斉射撃がはじまった。3人はラミーロの投げた2発の手榴弾によって何とか逃げ出すことに成功したが、ぼくは膝を撃たれた。
 「第二部 1939年」われわれはバス強盗を行なった。もちろん支援者から何も取らずに。父は裏のくぐり戸をあけておいてくれた。父に呼ばれて部屋に入ると、暴力を受けた妹の姿があった。ぼくは裏切り者のギリェルモに、ぼくの妹にまた同じことをすれば、誰かが死ぬことになると軍曹に伝えろと言った。ヒルドとぼくは冬に備えて商店を襲撃した。客は4人いたが、一人が拳銃を抜く仕草を見せたので、ぼくはその男を射殺した。リーチがヒルドに会いたいと言っているというので、われわれはヒルドの父親の旧友の駅長に相談すると、われわれはお尋ね者になっていて1人5万ペセータスの賞金がかかっていうと言う。そこで駅長は15万ペセータス用意できれば、われわれをフランスへ亡命させてやると言った。ラミーロは金の当てがあると言い、鉱山主のドン・ホセを誘拐し、身代金二十万ペセータスを要求した。指定時間に車で現れたドン・ホセの妻はヒルドの命令に従って金の入った袋を投げて寄越したが、その瞬間に地面に身を投げ出し、ヒルドに向かって銃を撃ち始めた。車とわれわれとの間で銃撃戦が起き、しばらくして静寂が訪れた。ドン・ホセの妻と思われたのは、変装した治安警備隊員で、ヒルドを殺されたラミートはドン・ホセをその場で射殺した。
 「第三部 1943年」ラミーロは久しぶりに母と会っていた。母は様々なものをラミーロに用意してくれていた。われわれは司祭のドン・マヌエルをフアンを密告したとして処刑しようとしたが、ラミートは最後には許した。そして味方になってくれる羊飼いらと連絡を取り合い、その合間にぼくは農婦の妻に誘惑されてセックスしたりもしたが、次第に治安警備隊に包囲され、再びラミートの手榴弾と牛の暴走を使い、敵の包囲を突破した。それ以降、ラミートとぼくは洞窟にずっと隠れる生活が始まった。やがてラミートが裸足で歩いて足を怪我し、破傷風となった。ぼくはこれまで何度かラミートとベッドをともにしているティーナの元へラミートを運び、助けを求め、医者のフェリックス先生の元を訪ねたが、先生はもう引退したと診察を拒否し、アルコールだけを渡してくれた。ぼくがティーナの小屋に戻ると、そこは既に治安警備隊に包囲され、小屋は燃えていた。そしてしばらくして2発の銃声が轟いた。
 「第四部 1946年」ぼくは1人で洞窟に隠れていた。ラ・リェラの祭に出ていったこともあったが、ぼくに気づいたのは十年前に踊ったことがあるマルティーナだけで、彼女はすぐに夫と踊り出した。死を迎えた父に会いに行くと、妹から「出ていって」と言われた。リーナは温かく迎えてくれたが、洞窟に戻ると、既に治安警備隊に発見され、燃やされていた。その後、二日二晩の嵐を屋外でやりすごし、やがて実家のヤギ小屋に掘った地下の穴の中で一日中を過ごすことになった。しかし生き埋めになったまま死を待つしかない日々に耐えきれず、ある日、国境越えに必要なものを持って、無人駅から列車に乗るのだった。

 隠喩を多様した自然描写が、散文詩的な色調を文章に与えていました。

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マキノ雅弘監督『喧嘩笠』

2014-02-17 10:30:00 | ノンジャンル
 マキノ雅弘監督の'58年作品『喧嘩笠』をスカパーの東映チャンネルで見ました。
 朝駒が座長の一座の舞台の客席で女に酌を強要する役人に、大前田組の一人息子・英次郎(大川橋蔵)は遠慮するように言い、斬りつけてきた役人を逆に斬り返して傷を負わせ、追い返します。相手が悪いと英次郎の父の平五郎(月形龍之助)は英次郎を旅に出し、自分の昔馴染みの海老屋甚八を訪ね、そのかわいい一人娘に惚れてもいいぞと言います。大前田組に押しかけた役人に、平五郎は自分が替わりに縄にかかると言います。
 英次郎は旅先で半次(堺駿二)に出会い、彼に50両をを持っていることを教えると、半次は必ずそれを掏ってやると言います。すきを見せない英次郎に半次はもう諦めたと言い、他の人から掏った財布を見せ、それを奪おうとする英次郎と格闘しているうちに、今こちらに歩いてくる人に財布を返してほしいと言って去りますが、英次郎は騙されたことに気づき、先程格闘した時に自分の財布を掏られたことを知ります。
 一方、牢に入れられた平五郎を訪れた次郎長(大友柳太郎)は、年老いた海老屋に、娘が婿を取るまで自分の縄張りを預かってほしいと頼まれたと言い、平五郎はあの縄張りは武居のども安が狙っていたので、是非次郎長に守ってほしいと言い、また英次郎を海老屋に送ったが、彼は自分の跡取りなので、海老屋の縄張りは次郎長のものになるだろうと言います。
 道中、腹が減って動けない英次郎に金をめぐもうとする海老屋の一人娘・お喜代でしたが、そんなものもらえないと言う英次郎はすぐにしゃがみこんでしまいます。お喜代はお付きの者と英次郎を海老屋に連れてきます。わらじを脱ぐことになった英次郎は、三下になったつもりで雑巾がけなどをしますが、親分から小遣いをもらうと、親分に行くなと言われた博打に行ってしまいます。そこで大勝ちする英次郎。甚八に英次郎の嫁にやらすつもりだと言われたお喜代は、博打場へ英次郎を迎えに行き、そこで英次郎と対面勝負をし、勝ちます。その間、ども安は海老屋に斬り込み、甚八を斬ります。帰り道、お互いが好きだ嫌いだと英次郎とお喜代が話していると、ども安の斬り込みの知らせが入り、甚八は英次郎にお喜代を頼むと言って亡くなります。
 歌を歌って夜の林の中を歩いていく次郎長一家。英次郎はども安を斬るために海老屋を去ります。
 次郎長一家は海老屋に着くと、ども安は自分たちが斬ると言い、お喜代に英次郎を止めるように頼みます。
 大前田の親分が放免になったと聞き、喜ぶ次郎長一家。英次郎は半次が武士に斬られようとしているところにたまたま通りかかり、武士を追い払います。そこに石松(水島道太郎)が現れ、お喜代を連れてきたことを知らせます。
 泣き止まないお喜代をもてあます英次郎。そこへ半次が怖い顔つきの男たちが宿に入ったと聞いて、英次郎が行ってみると、それは次郎長一家でした。ども安は自分が斬るので、手をひいてもらいたいと言う次郎長と、行ってはいけないと言われていた博打に行ったばっかりに甚八の命を救えなかった自分に行かせてくれと言う英次郎は、刀で勝負することにしますが、お互い斬る気がない勝負など意味がないと次郎長が言い、お喜代は任せるので、自分たちがども安を斬れなかったら、大前田一家で斬ってくれと言って、次郎長一家は出発します。英次郎は、このままだと清水一家が凶状持ちになるので、お喜代も行って敵討ちということにしようと、英次郎とお喜代は次郎長一家の後を追います。
 甲州の黒駒(進藤英太郎)一家に匿われているども安。町はちょうど祭りの最中です。宿に次郎長一家が入ったと聞いた黒駒は宿から一歩も出すなと命じ、宿を大勢の手下に囲ませます。英次郎はその夜、黒駒らが料亭で朝駒一座の余興を楽しむと知り、一座に混じって舞を舞うと、黒駒とども安の前に進み出て、乱闘が始まります。次郎長一家もお喜代を囲みながら料亭に乗り込み、ども安を無事に仕留めます。押しかけてきた役人に「十分にお調べください」と言う英次郎。
 青天の中、楽し気に故郷に戻る次郎長一家と英次郎とお喜代の姿を写して、映画は終わります。

 踊りや殺陣はワンシーン・ワンショットでなるべく撮ろうという意思が見られる映画でした。

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奥田英朗『噂の女』

2014-02-16 09:37:00 | ノンジャンル
 奥田英朗さんの'12年作品『噂の女』を読みました。
 まず、「中古車販売店の女」 会社の同僚が中古車を買ったら、その日のうちに故障したので、同僚3人でディーラーにクレームを付けに行くことになった。リーダーの後藤は新品タイヤ4本とカーナビを付けさせようと企んでいる。交渉中、3人の中で一番若い雄一はふと視線に気づき、顔を上げると、デスクの女子事務員と目が合った。女はゆっくりと仕事に戻った。しばらくするとまた女と目が合った。今度は3秒ほど見つめられた。何か言いたげな目だ。帰宅途中、さっきの女子事務員は中学時代のクラスメートの糸井美幸だと思い出した。夕食時、3人にそのことを言い、中学時代は目立たない女で、男子とはほとんど口を利かなかったと言うと、後藤は「女は変わるやて。やりまくっとるぞ、あの女」と後藤は言った。
 翌日も3人でディーラーに行くと、美幸は昨日とは髪型を変えていて、前髪をたらし、毛先をカールさせていた。香水の匂いも漂った。雄一は女の体を盗み見た。胸も尻も肉付きがよかった。顔は十人並みだが、ちゃんと色気はあるので、言い寄る男もいそうだ。交渉中、美幸と目が合った。くすりと笑ったように見えたが、すぐに目をそらされた。しばらくしてまた美幸と目が合った。今度は小さく会釈された。自分に気があるのかと雄一はうぬぼれた。その日の夕食でも美幸の話になった「ところであの事務員、今日は色目遣っとったな。あれはやれるぞ。北島、連絡とってみい。名簿見れば電話番号わかるやろ」
 雄一は帰宅するとすぐに中学時代のクラスメートに電話をかけた。美幸は短大に行ってから派手になり、キャバクラのバイトをしていたという噂もあったという。しばらくすると、さっき電話したクラスメートから折り返し電話があり、美幸と短大が同じだった友人に電話があり、雄一のことを盛んに訊いていたと言う。雄一はその夜、美幸の胸と尻が頭のなかでちらつき、マスターベーションをした。
 3日目。美幸はストッキングではなくハイソックスを穿いていたので、太ももは生足だった。雄一は途中でトイレに行き、外に出ると美幸が立っていた。短大時代に、自分を変えようと思って、アルバイトとか、サークルとか、語学留学とかいろいろしたのだと言う。雄一は携帯の番号を聞かれた。「じゃあね」糸井美幸が踵を返すと、髪をふわりと浮かせ、先に事務室へと走っていき、雄一は彼女の尻を凝視した。もう性的なことしか頭にない。その夜、雄一は美幸から電話がかかってくるのを期待しながら残業した。かかってきたのは先日電話した中学時代のクラスメートだった。何と、美幸は今勤めてる会社の親会社の社長の愛人だと言う。
 翌日、その話を同僚にした。「ほらみろ。おれが言ったとおりやないか。あの女、やりまくっとるぞって」雄一は少しはときめいた女が、愛人と聞いて失望感を味わっていた。雄一は早く帰りたくて仕方なかった。

 この後、美幸をめぐって、舞台は一族会社で働く営業マンたちが集う麻雀荘(「麻雀荘の女」)、結婚を控えた女性が通う料理教室(「料理教室の女」)、美幸が再婚しようとしている不動産会社社長の4人の兄妹たちと美幸との戦い(「マンションの女」)、美幸がパチンコ屋で知り合った失業者の女性に睡眠薬の入手を頼むファミレス(「パチンコ屋の女」)、美幸がクラブを開いた柳ケ瀬の繁華街の入口にあって、美幸がホステスをスカウトする託児所(「柳ケ瀬の女」)、建設会社の談合のシステムを変えようとする若者とそれを阻止しようとする既得権益者との戦い(「和服の女」)、美幸が美人局をして檀家総代になり、檀家に巨額な寄進を迫る話(「檀家の女」)、美幸の周囲で不審な死が続いているのに気づいて捜査に乗り出す刑事(「内偵の女」)、そして有力県議の愛人としてスカイツリーに登るはずが、捜査の手が及び、県議の全財産を奪って逃げ出す話(「スカイツリーの女」)と続いていきます。
 以前のユーモラスな奥田さんが帰ってきたようで、物語の構成力もさすがだと思いました。文体も読みやすく、300ページの本を実質1日で読んでしまいました。次回作が今から楽しみです。なお、詳しいあらすじは、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「奥田英朗」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

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デイヴィッド・クロネンバーグ監督『危険なメソッド』

2014-02-15 10:13:00 | ノンジャンル
 デイヴィッド・クロネンバーグ監督の'11年作品『危険なメソッド』をWOWOWシネマで見ました。
 “チューリッヒ ブルクヘルツリ病院 1904年8月17日”の字幕。暴れる女性ザビーナが病院に担ぎこまれます。医師のユングはこれから毎日君の話を聞こうと言い、ザビーナが幼少時から父に尻をぶたれ、それで快感を得るようになったことを知ります。やがてユングの提案で、ザビーナはユングの研究の手伝いをすることになり、自分の妻に連想法を施し、その結果をザビーナに訊くと、ザビーナは適格に答え、さっきのがユングの妻であることも見抜きます。ユングの最初の子供はユングの希望とは違い女の子でした。謝る妻。ザビーナは自分は不道徳で堕落し、一生入院の必要があると言います。
 “2年後 1906年3月3日 オーストリア ウィーン”の字幕。ユング夫妻はフロイトを訪ねます。ユングはザビーナが治癒し、大学の医学部でも優秀で、心理療法の歩く広告塔になっていると言います。フロイトに聞かれ、ザビーナが今でも処女だと思うと言うユング。ユングはフロイトと何度も会って語り合い、妻にフロイトの説得力の強さに負けてしまいそうになると告白します。湖上の船でユングと会ったサビーナは、ワグナーの音楽について語ります。
 ユングはフロイトに10月までグロス博士を預かってほしいと言われますが、彼は性欲を一切抑制せず、抑制すると神経症者になるのだと言います。ワグナーの『ワルキューレ』を流し、聴衆の様子をメモするザビーナ。やがてザビーナはユングを誘惑し、グロスはユングの元から逃げ出します。ユングはサビーナを訪れ、彼女の処女を奪います。2人娘を産んだ後3人目を妊娠したユングの妻は、ユングが欲しがっていた赤い帆のボートを贈り、ユングはザビーナに関係を断とうと言いますが、ザビーナは承知しません。ユングの妻は男の子を産み、愛人の元から戻って来てとユングに言います。ザビーナにボートで会いに行くユング。
 フロイトはグロスを預けたのは自分が悪かったと言いますが、ユングの神秘主義への偏向に異を唱えます。ザビーナの尻を叩くユング。フロイトはユングに愛人がいると女が言いふらしていると教えます。ユングはザビーナは自分の患者でしかないと言うと、ザビーナはユングの顔を切り、診察料として金を置いて帰ります。ザビーナはフロイトに手紙を書き、それを聞いたユングはフロイトに仲裁を頼み、ザビーナはユングと別れる決心をします。病院を去ることになったユングを訪ねたサビーナは、今後は自分はフロイトの患者になると言ってユングに紹介状を書かせます。そしてフロイトとユング夫妻はアメリカに行くことになります。
 “1910年9月25日 スイス キュスナハト”の字幕。ザビーナは卒業論文を院長となったユングに見せに来ますが、ユングはフロイトの論と逆だと批判します。ザビーナの尻を叩くユング。卒業したら町を出ると言うザビーナに、全てを捨てて君と消えてしまいたいと言うユングは、「行くな」と言って彼女の膝で泣きます。
 “2年後 1912年4月17日 ウィーン”の字幕。フロイトはユングを非難し、ザビーナは擁護します。君の一件でユングに愛想が尽きたと語るフロイトは、患者を君に任せたいとザビーナに言ってきます。その後、フロイトは倒れ、ユングとフロイトとの間で悪意のこもった手紙の応酬があり、二人は関係を断ちます。
 “1913年7月16日 キュスナハト”の字幕。ユング夫人と妊娠中のザビーナ。ユングはフロイトと絶交した後、執筆が進まず眠れず患者も取らなくなったと夫人は言い、助けてほしいと言います。ユダヤ系ロシア人の医師と結婚し、ロシアに戻ると言うザビーナに、ユングは今の愛人も元患者で君を思わせると言います。車で去るザビーナ。呆然とするユング。“グロスは1919年ベルリンで餓死。フロイトはナチスにウィーンを追われ、1939年にロンドンにて癌により死亡。ザビーナはロシアで優秀な精神分析家を育てた。その後故郷ロストフに戻り、幼稚園を設立。1941年、ナチスの侵攻により、娘2人と共に銃殺された。ユングは第一次大戦中に長期の神経衰弱を病んだが、その後世界的な心理学者となる。妻や愛人の死後、1961年、平穏に没した”の字幕で映画は終わります。

 特にこれといった“ショット”もなく、あまり面白くないメロドラマを見せられたといった感じでした。
 
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北尾トロ『傍聴弁護人から異議あり!』

2014-02-14 10:12:00 | ノンジャンル
 北尾トロさんの'13年作品『傍聴弁護人から異議あり!』を読みました。傍聴人として裁判を傍聴しながら、弁護人になったつもりで裁判を見るという試みです。
 まず、裁判員裁判が始まってから変わったこととして、プロ同士だから通用していた法律用語の連発がなくなったこと、罪を認めている性犯罪者に対して検察官(主に女性検事)が見せる、「あなた、いい歳して女子高生のカラダを触ったりして恥ずかしくないの!」みたいな説教パフォーマンスも影を潜めたこと、事前に行われる公判前整理手続で争点が整理されることや、判決までの日程が決まっているため、弁護人が時間稼ぎに裁判の引き延ばしを図ることもなくなったこと、裁判員の目を気にして、頬杖をついたり眠そうにしたりしている弁護人も見かけなくなったし、着るものや髭の手入れにも気をつかい、何かこう、ワイルドなところ、むき出しの戦闘態勢ってものが見受けられなくなったことがあります。
 本で扱われている事件は8つ。1つ目は酒酔い運転とひき逃げをしておきながら、その記憶が被告人にないという事件。弁護士は施設に5人の子供がいるという情状面から裁判員に訴える戦略を取り、検察官は懲役12年を求刑し、弁護人は7年が相当と主張。結果は懲役8年でした。
 2つ目はケンカの結果人を殺してしまった事件。相手から手を出してきているので、過剰防衛か、殺意があったかどうかが争点。弁護人は被告人の母と妹に証言してもらい、検察官は懲役6年を求刑、弁護人は執行猶予が適当とし、判決は執行猶予なしの懲役4年でした。
 3つ目は放火をしたにもかかわらず、覚えていないという事件。争点は被告人が精神病院に通院していることもあり、精神鑑定でしたが、これがよくもめるのだと言います。精神鑑定は境界性パーソナリティ(性格)障害であり、精神病とまでは言えず、責任能力ありの判断。検察官の求刑は5年、弁護人は執行猶予も期待しましたが、結果は懲役2.5年。執行猶予はつきませんでした。
 4つ目は被告人が正当防衛を理由に無罪を主張している事件。弁護人は被害者が死んだのは自業自得だと最初から戦闘モードで、目撃者証言のあやふやさや、被害者が持病を持っているにもかかわらずケンカを売ってきた点も指摘しました。検察官は懲役5年を求刑、弁護人は当然無罪を主張。結果は何と無罪。著者にとって初めての無罪判決の目撃となりました。
 5つ目は職務質問をした警官を無視してトラックを発進させ、警官に怪我を負わせた事件。しかしこの事件、被告人は事件当時明らかに被害妄想に陥っていて、言っていることが支離滅裂で心身耗弱状態だったとも考えられます。検察官の求刑は懲役6年と重く、弁護人は執行猶予を要求。判決は殺意を求めて懲役3年、執行猶予5年でした。
 6つ目は住居侵入による4件の強姦致傷事件。弁護人は本人が反省しているなど、情状酌量の面で攻めようとしますが、2人の被害者の証言のインパクトが強く、作戦失敗。検察官の求刑は有期刑の上限の30年、弁護人は15年を口にして、判決は懲役30年。犯罪の悪質さについては弁護人も手出ししようがなかったところでした。
 7つ目はリンチ殺人に関わった少年に関する事件。少年院に行かせて更正を期待するか、少年刑務所に行かせて罪ほろぼしをさせるか、の判断。弁護人は当然前者の有用性を主張し、検察官は懲役5年以上8年以下、弁護人は保護処分が相当と訴え、判決は懲役3年6カ月~5年、未決勾留分80日を参入というものでした。
 8つ目はソマリアでの海賊行為で捕まった犯行当時16歳の少年。少年が犯行にどの程度携わっていたかで争われ、検察官の求刑は懲役5年以上10年以下、弁護人は少年ということもあり執行猶予を要求。判決は懲役5年以上9年以下でした。
 巻末には刑事弁護のスペシャリスト坂根真也さんへの著者のインタビューも載っています。現在、裁判員裁判がどのように行われているのかを知る一助にはなる本だと思いました。

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