gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

森村桂『天国にいちばん近い島』

2019-11-03 00:18:00 | ノンジャンル
 森村桂さんの1980年作品『天国にいちばん近い島』を読みました。
 冒頭部分を書き写すと、
「今になって思うと、父は出まかせをいったのかも知れないのだが、(中略)けれど父が話してくれた時は、私がとても小さな時だった。だから信じてしまったのだ。
『海をね、丸木舟をこいで、ずうっと行くんだ。するとね、地球の、もう先っぽのところに、真っ白な、サンゴで出来た小さな島があるんだよ。それは、神さまのいる天国から、いちばん近い島なんだ。地球のどこかで神さまをほしがっている人があると、神さまは、いったんそこに降りて、土人に丸木舟を出してもらって、日本へ来たり、アメリカへ行ったりするんだよ。だからその島は、いつ神さまがとびおりても痛くないように、花のじゅうたんが一面にしいてあって、天に近いからいつもお日さまを浴びて、明るくて、あったかいんだよ。その島の土人たちが黒いのは、どこの国よりもお日さまをいっぱいもらっているからなんだよ。その島の土人たちは、神さまと好きなだけ逢えるから、みんなみんな幸せなんだ』」(中略)
 大学二年の秋、父は何もいわないで、突然死んでしまった。(中略)
 父は嘘をいう人ではなかった。(中略)
 そんなある日、編集長が東京鉱業の鉱石運番船が通っている、ニューカレドニアというフランス領の島の話をするのを聞いた。
 その島は、気候が常に暖かく、一年中花が咲き、マンゴーやパパイアがたわわに実り、原住民の土人は二日働けば、あとの五日は遊んで暮らしている、伝染病もなければ、泥棒もいないところだという。
 ここだ! と私は思った。

 そして著者は実際にニューカレドニアの土人の村に住むようになります。
「(前略)朝目を覚ますと、ヤシの実の水を飲み、きのうの残りの芋を食べたあとは、部落の人たちと同じように、棚の下に寝ころんだりプルメリアの花の下やヤシ小屋の壁にもたれたまま、ぼんやりと、すわっている。お昼近くになると、それぞれの家から女たちが出て来て、畑から抜いてきたタロ芋やさつまいもを大きな黒い深鍋に入れてゆでる。(中略)男たちのあるものは海岸に行き、網を投げて魚をとる。(中略)子どもたちは泳ぎながら、素手で器用に魚をとってくる。(中略)それらをゆで、あるいは、二枚のトタンにはさみ、下から火を燃して焼いて食べる。飲み水はいつもヤシの実の水だ。
 ヒルの食事が終ると、長い昼寝が始まる。やっと夕方になって起き出して、またしばらくぼんやりして、暗くなってから、昼間の残りの芋を残った魚といっしょに食べる。そしてそれぞれのヤシ小屋に帰って眠ってしまう。変るのは日によって、魚の収獲が少しぐらい違うだけ。男たちのする仕事といえば、この魚とりとヤシの実を落すこと。女たちは、おそらく一回植えたら一年中手をかけなくても生えているのだろうこの芋を、掘って来てゆでるか、あるいはたまに石焼き料理にするために、貝がらや、ヤシのカラの破片を使って器用に芋の皮をむく程度。それに私たちお客のためにヤシの新芽で帽子を編んでくれること、それ以外には何もない。」

 N新聞から原稿を依頼された著者は、次のように書きます。
「真っ白な砂浜を持ち、マンゴー、パパイアがたわわに実る常夏の島であること、毛虫もいなければこわい動物もいないし、ドロボウもいないこと。こわい顔をした土人たちは、フランス語を話して善意そのものであること、ヌーメアで日雇いの仕事をしている土人たちは、週三日しか働かないこと、三日働いてお金をもらうと、ビフテキやオムレツを食べ、ブドウ酒まで飲み、友だちがくればごちそうしてしまうこと、その三日が過ぎれば、さあもう仕事は充分したのだからと、あとの四日は田舎に行くトラックに乗せてもらう、そこにはマンゴー、パパイアがいっぱいなっていて、いくらとっても誰も文句をいわないこと、眠くなったら近くの土人小屋を訪ねれば、どこでも喜んで泊めてくれること、お金がほしくなったら道で出会った人にそう言えば、誰でも百フラン(四百円)ずつくれること、だからといって乞食じゃない、彼らは敬虔なるカトリックの信者、神父さまはおっしゃった、われらみな神の子━━兄弟である、兄貴にこづかいを貰うのがなにでおかしい。フランス人が立派な家に住み、新しい服を着、車を乗りまわしても、土人たちはやっぱり彼ら自身の生活をし、そのためにアクセク働くことを好まないこと、だからこの島は魚までがのんびりして、ザルでもすくえること、いつかバカな日本人が来て、みんなで水をたたいてワッと驚かしたけれど、魚は何かくれるかと思って寄って来てしまったこと。」

 ニッケルを含む赤土でできたニューカレドニア本島から離れ、ウベアの島の土人の村で「天国にいちばん近い島」を体験した著者の暮らしぶりが生き生きと描かれている本でした。

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto