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高橋秀実『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』

2012-12-22 07:13:00 | ノンジャンル
 高橋秀実さんの'12年作品『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』を読みました。『小説新潮』の'11年7月号から'12年1月号、4月号に連載された「僕たちのセオリー」に加筆修正されて出来上がった本です。
 「本書は、超進学校として知られる開成高等学校の硬式野球部が甲子園大会に出場するまでの道のりを記録しようとしたものです。いまだ出場には至っておりませんが、早ければ来年にも出場を果たす可能性もなきにしもあらずという期待を込めて、ここに途中経過として出版する次第です」という前文から始まるこの本は、前文で言われている通りに、現在進行形として開成高校の硬式野球部の日頃の練習の様子や練習試合、公式試合の結果を語った本です。
 元来、東京大学進学のための学校として作られた開成は、現在も年に200人近くが東大に入学する進学校ですが、平成17年の夏の高校野球の東東京予選でベスト16まで勝ち進み、その年の優勝校・国士舘に敗れたのでした。そして、平成19年に「開成がさらに強くなっている」と聞いて、著者は、早速取材に訪れます。
 開成高校にはグラウンドが1つしかありません。他の部活との兼ね合いで、硬式野球部が練習に使えるのは週1回。それも3時間ほどの練習です。その練習もいたって静かで、坊主頭の生徒などおらず、それぞれが黙々とそれぞれの課題に取り組んでいるのですが、見ていると異常に下手なのでした。3塁を守る3年生は「エラーは開成の伝統ですから」と開き直るように断言し、「僕たちのようにエラーしまくると、相手は相当油断しますよね。油断を誘うみたいなところもあるんです」と言います。
 地方大会の場合、5回で10点差、7回で7点差が開いているとコールドゲームとして試合が終了します。勝つにせよ負けるにせよ開成の試合はほとんどがコールドゲームなのでした。青木監督は「『相手の攻撃を抑えられる守備力』がない開成は、1番打者から強い打球を打てる可能性のある選手を順に並べます。すると、たまたま下位打者が出塁すれば、相手がショックを受けているところへ最強の打者をぶつけ、勢いに任せて大量点を取るイニングを作る。ドサクサに紛れて勝っちゃうんです」と言います。監督は、守備というのは案外、差が出ないと言い、「すごく練習して上手くなってもエラーすることはあります。逆に、下手でも地道に処理できることもある。1試合で各ポジションの選手が処理する打球は大体3~8個。そのうち猛烈な守備練習の成果が生かされるような難しい打球は1つあるかないかです。我々はそのために少ない練習時間を割くわけにはいかないんです」と述べます。開成の練習はそのほとんどがバッティングであり、守備については「ピッチャー/投げ方が安定している 内野手/そこそこ投げ方が安定している 外野手/それ以外」という基準でポジションを決めているのだそうです。
 週に1回しかグラウンドを使えない開成野球部は、土日を利用して他校へ練習試合に出かけていました。甲子園出場経験もある関東一校との試合では、1、2回でさんざんな守備のために合計8点を取られますが、3回になると、いきなり開成の先頭バッターがライトオーバーの3塁打を放ち、それからは相手のエラーなどもあって一挙に7点を挙げます。結局試合は日没のため8回で終了、15-12で開成の負けでしたが、著者は思い切ったスイングで一挙に大量点を狙う開成野球がやがて甲子園に行けるのでは、と考え、そのさらなる進撃を見守る決意をします。それから4年。久しぶりに監督と連絡を取ると、「今年あたり大きな結果が出る」と予言され、開成を再び訪れた著者は、そこで「進化を遂げた開成野球」を見るのでした‥‥。

 いつもの高橋さんの本と同じく、ユーモラスな語り口に魅了され、一気に読んでしまいました。理論から攻めていく開成野球部の監督、そして部員の面々の個性豊かな様子も楽しめる、“エンタメノンフ”の一級品になっていると思います。なお、この本の詳細については、私のサイト(Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto))の「Favorite Books」の「高橋秀実『はい、泳げません』」の場所にアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto