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アキ・カウリスマキ監督『ル・アーヴルの靴みがき』その2

2012-05-27 05:42:00 | ノンジャンル
 昨日、水道橋で行われた光市事件弁護団報告会に行ってきました。事件当時18才1ヶ月だった被告人が最高裁差し戻し控訴審で死刑判決となった光市母子殺害事件のことです。報告会では4つの鑑定について鑑定を行った先生方の発表が約30分ずつあり、その後、供述再現実験ビデオ、そして最後に21名の弁護団の中から8人の弁護人の方が登壇され、安田好弘弁護人の司会の元、各弁護人への質疑応答という形で報告会が行われました。被告人、そして弁護団へのマスコミ、全国民挙げてのバッシングの中での判決でしたが、実際は計画性のない犯行であり、また父のDVにさらされ、母の首吊り死体を見て育った被告人の情状酌量部分も多くあることを初めて知りました。被害者の夫の方ばかりがマスコミによって喧伝された事件でしたが、再審開始を切に願うとともに、それに向けて努力されている多くの方を目の前にして感動しました。

 さて、昨日の続きです。
 リトル・ボブのコンサートは成功しますが、その日にアルレッティに服を届けるはずだったマルセルは自分が日時を間違えていたことに気付き、アルレッティへの服を紙に包み、イドリッサに届けさせます。
 翌日、モネ警視は早朝にマルセルを訪ね、すぐに荷物を捨てるように言うと、その直後、警察がやって来て家宅捜索を始めます。家宅捜索はイヴェットやジャン=ピエールの店にも及びますが、ジャン=ピエールは野菜を積んだ人力車にイドリッサを隠し、チャングとともに彼を港へ運びます。港で待っていたマルセルはイドリッサを漁船に乗せますが、そこへモネ警視が現れ、船底に隠れているイドリッサを発見します。そこへ警察の捜索隊がやって来ますが、モネ警視はこの船にイドリッサはいないと言って、彼らを去らせます。船は出港し、船底からデッキに出たイドリッサはル・アーヴルの町に別れを告げ、ロンドンの方向へ振り返ります。
 アルレッティの病院を訪ねたマルセルは、アルレッティのベッドが空で、届けさせた服の紙袋がその上に置いてあるのを発見します。看護婦に医者の元へ案内されるマルセル。医者は、これは奇跡で、以前上海で一度起こったことが報告されているだけだと言うと、カメラは黄色いドレスを着て立っているアルレッティの姿を捕らえ、彼女は「病気が治った」と言うのでした。
 二人して家に帰ると、庭の桜が満開に咲いていて、アルレッティが「食事の支度をする」と言うと、カメラはその満開の桜を画面一杯に捕らえるのでした。

 密告者が、以前やはりカウリスマキ監督の『コンタクト・キラー』で見たジャン=ピエール・レオに酷似しているように感じ、内心「レオに間違いない!」と思った瞬間から涙ぐんでしまいました。レオの顔は壮絶な顔となっていて、あの嵐のような60年代後半のフランス映画を、身を引き裂かれるような思いで生きたであろう彼の人生をまさに体現している顔であり、密告者の顔として(あるいは「映画」の顔として)、この映画の中でも突出したものだったと思います。ラストの大どんでん返しも、とても清清しいものでした。(場内で泣いていた方も結構いたようです。)また、静物を身近から撮るショットが、途中から「ブレッソンに似ているなあ」と思うようになったのですが、公式パンフレットに収められている監督へのクリスティーヌ・マッソンのインタビューの中で、映画的言及として最初に挙げられている名がブレッソンだったので、「やはり皆、そう感じているんだなあ」と思った次第です。マッソンは他にもベッケル、メルヴィル、タチ、ルネ・クレール、マルセル・カルネ(これはパンフレットのイントロダクションでも、主人公マルセル・マルクス、その妻アルレッティという名前に言及していました)という名前も挙げていましたが、私が思うには、圧倒的にブレッソンの映画に近いという印象があり、なるべく少ないショットで、ストーリーを観客に伝えていく手法がそっくりだと思いました。この映画がカウリスマキ監督の最高傑作だと言う人もいるそうなので、映画ファンの方は必見だと思います。映画館での上映はもうほとんどの地域で終わってしまっているようですが、少ないながらまだこれから上映する地域もあるようなので、是非ネットでチェックしてみてください。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/