goo blog サービス終了のお知らせ 

うたことば歳時記

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

凍れる月影

2016-01-17 16:53:11 | うたことば歳時記
 暖冬と言われていましたがもここ数日は寒さが厳しくなりました。こんな時、夜に外に出て月を眺める人はいないのでしょう。春の朧月、秋の明月を見ることはあっても、冬の凍ったような月は鑑賞の対象にならないかもしれませんね。それでも私は「寒月」という雅号を自称する程に、冬の月の風情が大好きです。まあ寒さに強いからかもしれませんが、冬の月はなかなかよいものです。
 古歌にも冬の月を詠んだ歌がたくさんあるので、いくつか御紹介しましょう。
  ①大空の月の光し清ければ影見し水ぞまづこほりける    (古今集 冬 316)
  ②天の原空冴えさえや渡るらん氷と見ゆる冬の夜の月    (拾遺集 冬 242)
  ③冬の夜の池の氷のさやけきは月の光の磨くなりけり    (拾遺集 冬 240)
  ④冬寒み空に凍れる月影は宿に漏るこそ解くるなりけれ   (金葉集 冬 274)
 ①は、月の光が清らかなので、月影(月の光)が映った水が最初に凍ったことだ、という意味です。「し」は強調ですね。作者の目の前に、何か水が凍っていて、そこに月が映っているのでしょう。その水が凍ったのは、月の光が映ったからだ、というのですから、月も凍っていると理解しています。②はわかりやすい歌で、大空を渡って行く冬の月は、氷のように見える、というのです。ここでも月は凍っていると理解されています。③は冬の夜の池の氷が清らかなのは、澄みきった月の光が磨いたからであった、という意味です。凍った池に月影が映っている様子を、月影が磨いていると理解しているわけです。④は理屈っぽい歌ですが、凍ったはずの月の光が我が家に漏れてくるのは、月の氷が解けているから、と理解しています。冬の月は凍っているという共通理解があります。そう言われてあらためて月を見上げてみると、確かにそのように見えますね。冬の月は南中高度が高く、「孤高」という印象が強いものです。また空気が乾燥していますから、月も星もよく見えることも手伝っているのでしょう。
 「凍った月」と言えば、私のような古い世代は唱歌『灯台守』を思い起こします。

  1、こおれる月かげ 空にさえて 真冬の荒波 よする小島(おじま)
    想えよ とうだい まもる人の とうときやさしき 愛の心

  2、はげしき雨風 北の海に 山なす荒波 たけりくるう
    その夜も とうだい まもる人の とうとき誠よ 海を照らす

 この歌は1947年に文部省発行の小学生向け音楽教科書「五年生の音楽」に掲載されたそうです。曲については、ネット上の解説ではイギリス民謡ともアメリカの賛美歌ともあって、私にはどちらが本当なのかわかりません。私も小学生の時に習いました。しかし現在は日本の灯台は全て無人化され、歌詞の内容は実態にそぐわなくなってしまいました。そのためか、音楽の教科書からも姿を消してしまいました。若い世代の方はご存じないでしょうが、YouTubeで聞くことができるでしょうから、一度視聴して下さい。
 灯台の業務がどれ程大変なことであるかは、1957年に松竹が制作した、木下惠介監督の映画作品であ『喜びも悲しみもいく年月』によく表されています。この映画は、海の安全を守るため、日本各地の辺地に点在する灯台を転々としながら厳しい駐在生活を送る灯台守夫婦の、戦前から戦後に至る25年間を描いた長編ドラマです。機会があればこれも是非御覧下さい。またこの映画の印象と重ね合わせて唱歌『灯台守』を歌えば、さらに印象が強まることでしょう。命懸けで灯台を保持する人の心は、やはり春や秋の月よりは、冬の凍ったような月を背景にした方が心に染み通ってきます。「朧の月影」や「明るき月影」では、この場合は『灯台守』の歌にはなりませんね。
 話が逸れてしまいましたが、寒さが厳しいでしょうが、敢えて外に出て、凍っているように見える月や、凍っている池に映る月を眺めてみて下さい。心まで清らかになるような感じがすることでしょう。
 


コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。