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うたことば歳時記

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角ぐむ葦

2015-06-06 12:17:24 | うたことば歳時記
漢字では「葦」「蘆」「芦」と書くが、読み方には「よし」と「あし」がある。植物学上の正式和名は「ヨシ」であるが、古語辞典で「よし」と検索すると「あしに同じ」となっているように、「よし」が本来の古い名称である。それは記紀の神話に、この国を「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国」と表記していることでも明かである。ただ「あし」が「悪し」に通じるため、反対語の「良し」によって「よし」と読んだ。いわゆる忌み言葉である。『住吉社歌合嘉応二年』の跋に、「難波わたりには葦とのみいひ、あづまの方にはよしといふなるがごとくに・・・・・・」という記述がある。「嘉応」は1169~1171年間のことであるから、平安時代末期には、葦(よし)と蘆(あし)とが平行して行われ、特に東国では「よし」と称していたことがわかる。
 「角ぐむ葦」とは芽吹く葦の若芽ことで、先端が尖っているためそう呼ばれた。『古事記』の冒頭に「国稚(わか)く浮脂(あぶら)の如くして、くらげなすただよへる時に、葦牙(あしかび)の如く成りませる神の名は・・・・・・」と、葦の芽吹く如く神々が出現したことが記されている。
 この葦の芽が角ぐむ様子は、歌人の心を惹き付けた。また唱歌『早春賦』にも「氷解けさり葦は角ぐむ」と歌われているように、春が到来したことを実感させる景物であった。
  ①三島江に角ぐみわたる蘆の根のひとよのほどに春めきにけり(後拾遺)
  ②難波潟浦吹く風に波立てばつのぐむ蘆の見えみ見えずみ(後拾遺)
  ③三島江や霜もまだ干ぬ蘆の葉に角ぐむほどの春風ぞ吹く(新古今)
①の「ひとよ」は「一節(ひとよ)」と「一夜」を掛けている。葦には竹のように節があり、「節」は「よ」と読まれたため、葦はしばしば「夜」「世」を導く序詞を作った。一面に角ぐむ葦の根の「一節」ではないが、「一夜」のうちに春めいたことだ、という意味である。②の「見えみ見えずみ」はみえたり見えなかったりという意味で、寄せる波に見え隠れする様子である。
 葦は平野の水辺にはどこにでも生育するが、中でも淀川河口の難波潟や高槻市の淀川右岸の三島江は、早くから葦の名所として歌枕になっていた。また少し海水が混じるような汽水にも適応するので、河口付近は一面の葦原であったはずである。
  ④心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春の景色を(後拾遺)能因法師
④の「心あらむ人」とは「もののあわれを理解する人」という意味で、そんな人にこの難波潟の春の景色を見せたいものだ、というのである。どこにも「葦」とは詠まれていないが、一面に葦が角ぐむ景色を容易に想像できよう。もしそのような場面を見て何も感じないとしたら、それこそ「心ない人」なのである。

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