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漆器 日本史授業に役立つ小話・小技12

2024-01-07 16:01:03 | 私の授業
     

埼玉県の公立高校の日本史の教諭を定年退職してから既に十余年、その後は非常勤講師などをしていました。今年度で七四歳になります。長年、初任者研修・五年次研修の講師を務め、若い教員を刺激してきましたが、その様な機会はもうありません。半世紀にわたる教員生活を振り返り、若い世代に伝えておきたいこともたくさんありますので、思い付くままに書き散らしてみようと思いました。ただし大上段に振りかぶって、「○○論」を展開する気は毛頭なく、気楽な小ネタばかりを集めてみました。読者として想定しているのは、あくまでも中学校の社会科、高校の日本史を担当する若い授業者ですが、一般の方にも楽しんでいただけることもあるとは思います。通し番号を付けながら、思い付いた時に少しずつ書き足していきますので、間隔を空けて思い付いた時に覗いてみて下さい。時代順に並んでいるわけではありません。ただ私の専門とするのが古代ですので、現代史が手薄になってしまいます。ネタも無尽蔵ではありませんので、これ迄にブログや著書に書いたことの焼き直しがたくさんあることも御容赦下さい。

12、漆器
漆器の材料である漆については、江戸時代の農業で学習します。代表的な商品作物である「四木三草」(茶・漆・桑・楮・藍・麻・紅花)の一つなのですが、馴れていない人が触るとかぶれてしまいますから、漆の枝を教室に持ち込むことはできません。漆器については、縄文時代の遺跡から、漆塗りの装飾品が発掘されていたり、多賀城の漆紙文書を学習することがあるかもしれません。また法隆寺の玉虫の厨子台座の漆絵や、正倉院宝物の漆胡瓶(しっこべい)や螺鈿紫檀五絃琵琶を写真では見るでしょうが、漆が使用されていることはあまり意識されません。天平彫刻には乾漆像という技法があることは必ず学習しますが、これも同様です。古代以来中国への輸出品となり、南蛮貿易や長崎貿易でも同様であることもさらっと触れる程度には学習します。また桃山時代には高台寺蒔絵、江戸時代には本阿弥光悦や尾形光琳によって名品が作られたことを学習します。また江戸時代の産業で、春慶塗・輪島塗・会津塗・南部塗などを地方特産物の地図の中から探し出せます。
 まあざっとこの程度なのですが、漆器は英語ではjapanであり、日本の国名で表される程の日本の特産物として国際的に認知されているのですから、もっと積極的に取り上げてもよいと思います。Japaneseがjapanを知らないようでは、外国人に笑われてしまうでしょう。毎年尋ねるのですが、ほとんどの生徒がjapanが漆器であることを知りませんでした。因みにchinaといえば磁器のことです。ただしいずれも普通名詞ですから、頭文字は小文字です。
 そこで漆器を見せたいのですが、特産物とはいえ、現在では本物の漆器は大層高価なものになってしまいました。最近は漆器と称していても、合成樹脂製の器にウレタン樹脂を塗った偽物が出回っています。100円ショップにあるものは、100%偽物です。ただし合成樹脂製の器に漆を塗ったものもあり、こちらは偽物と言うよりは、安物の漆器と言えるかもしれません。しかしよくよく考みれば。「合成樹脂」という言葉そのものが、漆が樹脂であることを際立たせていることに気づくことは少ないのではないでしょうか。
 生徒に見せる物は、特別高価な美術品である必要はありません。むしろ日常生活の中から取り出して見せられることの方に意味があります。高価とは言っても、汁椀くらいなら何とかなるでしょうし、螺鈿細工の箸も買えるでしょう。骨董市に行けば、戦前まで使われていた本物の日用食器がいくらでも入手できます。また骨董品でよければ、漆塗のお盆や重箱もそれ程高価ではありません。日本人はもっと漆器の素晴らしさを再認識しなければなりません。それがよき伝統を継承することにつながってゆくことと思いますから。私は若い頃海外に旅行に行く時、日本土産として漆器をもって行きました。外国人は漆が日本の国名で呼ばれる特産物であることを知っていますから、JapaneseがJapanからjapanを持ってきてくれたと、殊更に喜んでくれたものです。