一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

北沢方邦の伊豆高原日記【99】

2011-04-12 20:56:22 | 伊豆高原日記

北沢方邦の伊豆高原日記【99】
Kitazawa, Masakuni  

 大震災の影響ではないが、自然のリズムもいささか狂っているようだ。このあたりのソメイヨシノは葉桜となりかかり、緑を増したツツジの深紅のつぼみが膨らんでいるというのに、これより下の桜並木ではソメイヨシノはまさに満開であり、桜祭りの自粛で人波はみられないが、空の青を背景に、陽光に溢れるばかりに輝く花の隧道である。いつも本居宣長の「敷島の大和心をひと問はば」を思い起こさせるヴィラ・マーヤの山桜は、まだ満開で、濃い緑の葉と純白の花の清楚なとりあわせが「朝日に匂」い、視野一杯にひろがる。 

 ホピの今井哲昭さんに、「ホピからの便り」としてブログの連載をお願いしたが、やはりホピに暮らすものとして、どのようなメディアであれ、外に向かって語ることはできないとのことです。その代わり必要なときには、私のアレンジした情報は載せてもいいとのことで、以下前回の便りから抜粋します。 

 日本ではいまだに《名ドキュメンタリー》として上映会などが行われている宮田 雪(きよし)の『ホピの予言』についてのきびしい批判です(いつかも記したように、ナバホ鉱夫のウラニウム被曝について書いた私の論文の一部を、画中でナレーションとして盗用しています。また以下の[ ]内は私の補足です)。

『ホピの予言』について 

 そうですか、10月1日ですか、「知と文明のフォーラム」の財団法人設立祝賀会ですか、私もかけつけたいです。みなさんにお会いして、ホピの話をお聞かせしたい。 

 宮田 雪の訃報が入りました。実になんと16年に渡る無意識の闘病生活だったようです[2作目の撮影が終わった直後ホピで倒れ、植物状態になったようです。青木やよひによれば「ホピの神様が怒ったのよ」とのこと]。

 9年間[今井さんが]世話したPJ(パルマー・ジェンキンス)によれば、「何やら事故やら病気に見舞われたら、現在だけではなく過去にも遡って、よく自分の行いをふりかえって見ることだ」と。

 で、私は『ホピの予言』をじっくりと、真剣に見ることにしました。 

 ひどいですね、あの映画! ムチャクチャいっている所が何か所もある。それが佐藤 慶という役者の実にいい地にひびくような声で言われると、知らない者には真実のように聞こえてくる。たとえば:

1)「ホピとナバホは互いに異なった言語と文化や歴史を持ちながらも、平和的に大地を共有し、共に偉大なる精霊から与えられたその恵みを分かちあうという伝統を今日まで守ってきたのである」
 なにを言う。後からやってきた戦士部族のナバホは、非戦士部族のホピに常に侵略や挑発を仕掛け、家畜や収穫物を略奪し、ホピの土地に入り込み、ここ百数十年以来土地争いの歴史である[19世紀以来ホピの村の首長や長老たちはたびたび合衆国大統領にナバホの不当を訴えてきた]。

2)「19世紀後半、合衆国政府の圧倒的な武力によって土地を奪われたナバホ族は、昔からホピの住む不毛の砂漠地帯に強制移住させられた」 
 もうこうなってきますと何が何だかわからなくなります。ムチャクチャだ[1864年、キット・カースン率いる合衆国陸軍との戦闘に敗れ、土地も家畜も果樹園も家も失った生き残りのナバホの人々が強制移住させられたのは、はるか離れたニューメキシコ州のボスケ・レドンドの砦(フォート・サムナー)であって、ホピとは関係ない]。

3)「しかし皮肉なことに、この砂漠地帯が実は無限のエネルギー資源の鉱脈地帯だったのである」 
 これもムチャクチャだ[1866年、ボスケ・レドンドのナバホがあまりにも悲惨な状況であったため、政府に派遣されたウィリアム・シャーマン将軍は、以後ナバホは戦闘を行わないという平和協定を結ぶことによって、元の居住地への帰還を許す。1940年代前半、マンハッタン計画(原爆製造)推進中、ナバホ保有地東部にウラニウムが発見され、ナバホを優先雇用するという約束でカー・マッギー社が鉱山を開発し、ナバホ鉱夫たちが低線量長期被曝にさらされる]。

4)「この地域(ビッグ・マウンテン)に住むナバホは、多くのナバホの中でも最も伝統的な生活を送る人々である。彼らの知っている唯一の法律は自然の法律である。だが政府と企業は今この地域に眠るウラニウムや石炭を新たに採掘するために白人の法律を盾に、住民である彼らを強制的に移住させようとしているのだ」 
 違うでしょ、それは。ビッグ・マウンテン[西部地域であり、本来ホピの土地に多くのナバホは後から移住してきた]のナバホは「最も伝統的」ではまったくない。ビッグ・マウンテン問題は、ホピ・ナバホの古くからの土地問題であり、1974年に両者が結んだ協定による境界からのナバホの撤退がこじれたものである。

5)「トーマス・バニヤッケはホピ族に先祖代々伝わる予言を世界に伝えるために部族の長老に選ばれたメッセンジャーだ」 
 そんなことってありえない。予言を含め、氏族や宗教結社にかかわることは、カチナ儀礼以前の子供や部族以外に漏らしてはならないと、厳格に教育され、ホピ同士でも守っている[バンヤッキャは部族以外では伝統派のスポークスマンとして有名であったが、1997年、他の自称長老たちとともに、伝統派の真の長老たちによって部族内で告発された。また宮田氏など彼らと結んだ白人や外国人たちも、厳しく指弾された]。 

 それにしてもトーマス、ムチャクチャ言っている。画中でマーサウ[大地の守護神]までの話はほんとうだが、「予言の岩絵[ペトログリフ]」の説明:「二手にわかれた、上下に、横の2本の線は、上が白人の道、下がホピの道」とここまではいい。次に「ここに二つの円が描かれているが、最初の円は第1次世界大戦の予言、次の円は第2次世界大戦の予言、もしくは最初の円はヒロシマに落ちた原爆の予言、次の円はナガサキに落ちた原爆の予言を表しており、祖先の予言が成就した」と。 
 ええー、うっそ―! これは英語で言うハインドサイト[結果をみての理由づけ]、マージャンでいうアトヅケというのに近い作り話だ。

 さらに次の:「灰の詰まったヒョウタンが飛んできてそれが炸裂すると多くの人が死ぬと祖先は予言している。ヒロシマ・ナガサキでその予言は成就した」に至ってはマユツバとしかいえない。
 あの岩絵は「ホピがホピの道を誤るとホピは死ぬ」という警告を刻んだものだ。[1906年の]ユキウマを長とする伝統派と、タワクワプテワを長とする進歩派とがオライビの村で衝突したとき、伝統派が進歩派に警告するために刻んだもので、トーマスがいう「祖先の原爆の予言」などというものではない。これについては面白い話がある。 

 PJの具合が悪く、キームス・キャニオンの病院に入院したとき、偶然にもトーマスと相部屋だった。ちょっと意地悪心を起こしてPJが、「おいトーマス、灰の詰まったヒョウタンの話、だれから聴いたんだ?」と訊ねると、トーマスは黙ってなにもいわなかったそうだ。 

 3年ほど前、アメリカ自然史博物館の人類学部門の学芸員で、オライビの歴史の専門家でもあるピーター・ホワイトリーさんにこの『ホピの予言』の話をしたとき、彼は「それは信じたいと思っている人が勝手にそう思っているだけだ」とさらっといっていました。 

 わが日本ではそれを信じたいと思っている人がやたらに多く、大手メディアまでが乗っているのですね。メディアが勝手に信じたりするなどとは許されません。 

 ここまで書いた所で、仙台のM8・9[9・0]という大地震のニュースがラジオから流れてきました。たいへんなことになっているそうで、これはトーマスのいう(これは正しい)「コヤーニスカッツィ」[終末のとき]の到来と見ていいのだろうか? 

 とするなら、今人類はなにをせねばならんのだろう。ホピのひとたちのモットーとする「シンプルで謙虚な生き方」Simple and humble way of lifeから何か学ぶものがあるかもしれない。