走りだす竹中優子
昨日の夕刊朝日「あるきだす言葉たち」は竹中優子の「小倉駅」8首。今年の角川短歌賞の受賞に決まった人である。9月9日、このブログで既にご紹介した彼女は「未来短歌会」の会員。受賞作✿「輪をつくる」はまだ発表されていないので未来9月号の竹中作品を引用した。「あるきだす言葉たち」は角川賞を背負った竹中の「走り出すだす言葉たち」だ。
小倉駅で祖母のこいびと待つ日中 金平糖を買ってもらえり
連作「小倉駅」8首の第1首である。「祖母のこいびと」に驚く。おばあちゃんが孫娘を連れて恋人に会う、真昼のデート、金平糖は星形の砂糖の小さな塊。色とりどりの飴である。
入学の祝いにもらったスカーフを一度も使わなかった東京
ぜんぶじぶんの目で見て来たよばあちゃんが豆大福をやわらかく裂く
東京で学んだ彼女が帰郷しておばあちゃんと会う。東京のあれこれを自分の目で見た東京のことを話す。おばあちゃんが豆大福を裂く、やわらかく裂かれた大福、おいしそうだ。
触るたび同じページがひとりでにひらくからだを生きる夕暮れ
窓枠に春の気配はふくらんで母に冷たくあたり別れぬ
竹中優子はいま女盛りの30代。掲出の2首は恋の歌か。<体を生きる夕暮れ><窓枠に春の気配がふくらんで>。妖しい雰囲気に私は包まれてしまう。
きらいきらいと首をふるとき足もとに金平糖の匂いが満ちる
太りたくない女たちは砂糖の塊の金平糖は食べないのではないか。私もその一人だ。スーパーの菓子売り場で見たことはあるが、買ったことはない。オシャレな箱や袋入りの菓子が
溢れている昨今、人気がない、でも懐かしい駄菓子である。竹中優子には金平糖はおばあちゃんの匂いなのだろうか。
10月20日 松井多絵子