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大島史洋の『河野裕子論』

2016-10-24 14:19:39 | 歌う

            大島史洋の『河野裕子論』

 ♥ 手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

 こんな切ない歌を残して2010年8月に河野裕子は64歳で世を去った。与謝野晶子も亡くなくなったのは64歳、しかし河野裕子の死は若すぎると惜しまれるのは半世紀も時代が異なる為か。平均寿命より20年以上も早く、老人になる前の死、河野裕子の無念をおもう。

 大島史洋『河野裕子論』が現代短歌社から刊行された。全15冊の歌集ごとに章立てし、歌を読み解く。「彼女の人生や生活は追わず、あくまで歌そのものを論じている」のである。河野の夫が優秀な科学者であり歌人としても活躍しているので、二人の恋の歌や私生活に私たちの関心が傾きがちだが、大島史洋と共に「河野裕子短歌作品」の世界を歩くのは秋こそよけれ、だろう、コスモスの花から秋が始まり河野裕子の歌が始まる。

            最後の最後まで 五首     松井多絵子

      コスモスの花々ひらきいつよりかこの公園にブランコあらぬ

      滑るのは夕べの風のみ、滑る子の一人もいない木の滑り台

      落葉を掃き寄せ掬いつつおもう最後の最後まで詠みしひと

      ニワトリの卵を割れば月が出るいつかどこかで見たような月

      二等米でも炊き立てはおいしくて河野裕子の卵かけごはんを

                       歌集『厚着の王さま』より

                

                            10月24日  松井多絵子