ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

The Days Of Wine And Roses Ⅱ

2009-01-25 23:04:49 | Weblog
この曲のメロディーやコードは広く知れ渡っているから、誰かとやる時キーさえ伝わればほとんど問題なく演奏できる。演奏のキーはほとんどFだ。ところが12小節目、オリジナルはC7だけどその後いろんなカヴァーをされているうちにEm7-5、A7とするコード進行でやるひとが増えてきた。これだとその後1小節づつDm7-G7-Gm7-C7と前半の折り返しに向けて何の問題もなく進んでいく。演奏もしやすい。でも歌手、それもこの曲をちゃんと把握していない人にとってはDm7のところにあるEの音、歌詞で言うと「That」にあたる部分がちょっとひっかかるのだ。歌えないというほどではないけど、このメロディーラインはこのコード進行には厳密には合わないかもしれない。やはりオリジナルのように前半の最後の4小節はEm7-5、A7-Dm7、G7-Gm7-C7の方が歌いやすい。ピアノで弾いてみるとどうということはない。どちらでもいい。でも歌うという行為はちょっと違うんだ。もちろんこのメロディーを完全に把握した歌手にとっては何の問題もない、取るに足らないことだ。人間が和声進行を感じながら歌うという感触は実際にやってみないと分からない場面がある。いろんな曲でたびたび出会う。そんな時は歌手にお伺いをたてるしかない。ピアノを弾きながら自分でも歌ってみる。でも確信が持てない。ピアノの前に立ってピアニストに音を与えてもらってそれを感じ取りながら歌う、この立場に立たないとわからない。でもそうかといって歌いにくいから悪い音楽というわけでもない。歌える音か歌えない音かその選択は複雑なヴォイシングをする時でも常につきまとう頭の痛い問題だ。