ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Bye Bye Blackbird Ⅲ

2009-01-12 23:31:36 | Weblog
コード進行だけでその曲がインプロヴィゼーションに向いているか向いていないかを判別はできないけど、和声構造がその成否のカギを握っているのはたしかだ。この「Bye Bye Blackbird」はそういう面ではあまりジャズに向いているとはいえない。コードがあまり動かないからだ。実はこれはかなりやっかいな問題だ。和声の推進力がかなり演奏そのものの助けになる。アドリブもやりやすい。でもこの曲にはそれがない。にもかかわらず「Bye Bye Blackbird」はジャズスタンダードとして君臨している。トニックのまま動かない最初の部分そして単純に繰り返されるⅡ-Ⅴ、ブリッジの部分はコードの内声に短7度音が出てきてちょっとブルージーなにおいがする。全体として穏やかに進むコード進行だ。それが安らぎを感じさせる。そして歌いやすいメロディー、いくつか挙げたらもちろんすぐれたポイントはある。でもそれはこの曲がすでに知れ渡ったスタンダード曲だからの評価だ。全く予備知識なしにはこの曲をレパートリーにはしない。この曲をスタンダード曲にしたサッチモやマイルス、その他のジャズミュージシャンの感性に脱帽するしかない。そしてジャズという音楽の懐の深さを感じる。ジャズをずっと演奏していると曲を選ぶ時まずインプロヴィゼーションに耐えうるか?自分なりのクッキングができるか?というのが基準になってしまう。これが実はジャズミュージシャンが陥るワナというか音楽の考え方がいわば本末転倒してしまっているともいえることなのだ。原曲とジャズインプロヴィゼーションとの関係は複雑で難しい。限りない自由を与えプレイヤーや聴衆を喜ばせてくれるはずのインプロヴィゼーション、それが逆にミュージシャンを縛りマンネリズムを感じさせジャズをつまらない音楽にしてしまう。即興演奏にマニュアルはない。そんなものを作ったら音楽は破滅する。そう考えていくとこの「Bye Bye Blackbird」はジャズをマンネリズムから救ってくれる偉大な曲ともいえるんだ。