ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Songs Ⅱ

2007-10-06 03:52:22 | Weblog
芸術には果たして世の中の価値観を変えるようなパワーがあるのか?まあこれは一般論だからかなり抽象的な疑問かもしれない。でも音楽に関わってずっと生きてきたから、こういう疑問は常に頭にあった。過去には芸術が世の中を引っ張っていく、みたいなキャッチコピーは何度も目にしたし、そう考えている人もいるかもしれない。ボクは分からない。まあどちらかと言えば否定的だ。芸術の立場はそんなに強くないと思っている。逆に世の中の価値観に引きずられて芸術が形を変えてしまうことはよくある。というか、ずっと世の中に振り回され続けている。数百年前にヨーロッパで生まれた都市型の音楽、いわゆるクラシック音楽は時代の変化に呼応して変わり続けた。それは人類のここ数百年の歴史、侵略と破壊と戦争を象徴している。その響きはまるでその犯した罪の許しを神に乞うているようだ。ジャズもその延長線上にある。舞台がアメリカに移っただけだ。20世紀のアメリカは経済が最重要な位置を占めていた。音楽もその影響をもろに受けた。価値観が一色になってしまった。数百年前と違って情報伝達も早いからその分変化も早い。ジャズの方法論が確立されたかなと思ったら、もう次の段階に移り、新しいサウンドが出てきたなあと思ったらすぐみんな飽きてしまう。そして絶頂期と思われる時期はあっという間に過ぎ去った。絶頂期は衰退期の始まりだ。それが何時だったとははっきり言えないけどすでに数十年前であることは確かだ。芸術の創成期は本当に混乱しているけどその分突出した人たちが出て来る。そして芸術が成熟するとなぜかパワーがなくなってくる。これは才能のある人材がいないんじゃない。人間社会の宿命だ。ブラッドメルドーは天才だ。でもモンクやエヴァンスと比べたりは出来ない。時代が違いすぎる。ジャズはどうやって生き延びていくんだろうか?これは「世の中」に聞かないとわからない。