がん(骨肉腫)闘病記

抗がん剤治療、放射線治療、人工関節置換手術、MRSA感染、身体障害者となっての生活の記録を残します。

昨日掲載の記事に関して

2008年12月08日 | Weblog
2008年12月08日 21時55分記載

昨日は、読売に掲載された垣添忠生 国立がんセンター名誉総長の記事を紹介したが、 その記事について思った所をいくつか記したい。



まず、キャンサー・サバイバーを「がん経験者」と訳したのは非常に良かったと思う。サバイバー(survivor)を直訳すると「生存者」となるかと思うが、そう訳してしまうと、亡くなられた方にマイナスの印象を与えてしまうかと個人的には感じる。垣添氏自身ががんを患った経験があるため、機械的な直訳ではなく、このような配慮のある訳となったのではないかと思う。



次に、がん対策基本法に尽力した故・山本孝史参議院議員や島根の患者運動を拡げたがん患者の背後には、彼らを支え、理論的支柱ともなった平岩正樹医師の存在があることを忘れてはならないだろう。

私自身、平岩正樹医師の著作から大変多くのことを学ばせて頂いた。

ご参考- http://2nd-opinion.eee.ne.jp/ (がんのWeb相談室)



最後に、紹介した記事は読売の1面~2面に掲載された「地球を読む」という不定期連載の記事なのであるが、この「地球を読む」には垣添氏だけではなく、佐々木毅氏や山崎正和氏等も寄稿しており、興味深い記事が多い。しかし、著作権の関係でなのかどうかわからないが、ウェブ上では見られない(昨日の記事は私が手打ちした)。より多くの人に読んでもらいたい内容なので(筆者の方もそう考えているのではないだろうか)、ウェブ上でも読めるようにしてもらえると大変有難い。



11月30日(日)読売1面~2面 地球を読む

2008年12月08日 | Weblog
2008年12月07日 23時59分記載

記事タイトル:がん経験者 特別視しない社会へ

筆者:垣添忠生 国立がんセンター名誉総長



「世界保健機関(WHO)の2007年の統計によると、全世界で年間にがんになる人は1100万人、がんで亡くなる人は790万人、がん経験者は2500万人という。おのおのの数は経年的に増加している。従って、がんは先進国はもとより、アジア・アフリカ諸国を含めた全世界的な健康上の重大課題となった。この課題に挑戦する上で、がんになる人を減らす、がんで亡くなる人を減らすことは最重要課題である。

 だが、ここではそれらと同等の意味を持つがん経験者の支援を議論したい。これまでわが国では、この問題はほとんど取り上げられてこなかったが、がん経験者はわが国でも既に300万人を超えている。がん経験者が豊かに生きることは、社会の成熟を考える重要な指標と思えるからである。

 1986年に、米国のがん経験者らの団体が「キャンサー・サバイバーシップ」という理念を提唱した。キャンサー・サバイバーとは、がん経験者と訳すのがいいと思うが、がんの診断を受けてから、治療を受けつつがんと共に生きる人、あるいはがんを克服した人までをすべて含めたやや幅広い概念といえる。

 がん経験者は、医学的にはがんの再発や転移の可能性に関する定期検査、治療に伴う副作用や後遺症への対処、当該がん以外の別ながんになる可能性、さらに、糖尿病とか高血圧といったがん以外の病気の管理など、実に多面的な医学的対応を必要とする。 

 加えて、がん経験者は、ともすると社会的弱者となりやすい。東大医療政策人材養成講座による先頃の調査によると、がん患者の4人に3人が「これまでの仕事を続けたい」と願いながら、3人に1人が転職や退職を強いられていたという。解雇された人もあり、約4割は収入が減少していた。がんという言葉に、死に至る病、というイメージがいまだに社会に定着していることに由来する一種の社会的差別といえよう。

 また、 静岡県立静岡がんセンターの山口建総長を主任研究者とする厚生労働省の「がんの社会学に関する合同研究班」では、がん経験者の悩みや負担について「がんと向き合った7885人の声」と題する報告書を刊行している。それによると、がんは一般には治療後5年元気だったら治癒したと考えられているのに、がん経験者の3分の1は5年たっても、10年たっても、身体に何か変調があると「再発ではないか?転移ではないか?」という不安に脅かされているという。

 つまり、がん経験者は肉体的にも、社会的にも、精神的にも何重にも傷つきやすい存在といえる。もちろん、早期発見・早期治療を受けた人は、同じがん経験者といってもこうした負担は圧倒的に軽い。

 がん経験者の数が増し、何が問題なのかが明らかになるにつれ、さまざまな支援策や活動が、まず世界で、そして日本でも展開されるようになってきた。

 国際的には、国際対がん連合(UICC)による支援活動がある。米国では、国立がん研究所や疾病対策センター、ランス・アームストロング財団など、各種の公私団体が力を合わせてがん経験者の支援を強力に展開している。ちなみにランス・アームストロング氏はツール・ド・フランスという自転車競技で前人未到の7回の総合優勝を果たし、かつ脳転移までも含む多発性がんを克服した英雄である。米国対がん協会も、寄付を中心とした財源・年1400億円を背景に、がん経験者の支援など実に多彩な活動を民間の立場で展開している。

 わが国では、07年4月、がん対策基本法が施行され、患者代表も含むがん対策推進協議会の議論を経て国のがん対策推進基本計画が策定された。その全体目標の一つに、「すべてのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の維持向上」が掲げられている。

 これは、現在治療中のがん患者だけではなく、家族、がん経験者を含めて、療養生活の質を維持向上させるために、精神的ケアや社会的支援を展開する必要性を強調した重要項目といえる。

 国立がんセンターに06年開設されたがん対策情報センターでは、がん患者、家族、がん経験者向けの膨大な量の、質の高いがん情報をがん情報サービス( htp://ganjoho.jp )としてウェブ上で、また印刷物で公開している。これらはがん経験者声を聴きながら編集された。

 また、聖路加看護大学では日本学術振興会「21世紀COEプログラム」の研究助成を得て、「がん市民学」という研究を終了したばかりである。これは市民が、社会全体ががん患者をいかに支えるか、という新しい視点に立つ研究だった。

 地域の取り組みも活発化している。島根県はかつて、がん対策の後進県の一つだった。島根県在住のがん患者によるがん化学療法体制の遅れ批判に端を発した患者運動は、大きな広がりを見せた。

 がん患者、家族、がん経験者、医療従事者、行政が一体となり、島根県がん条例を制定し、がん拠点病院も整備され、さらに県内13か所に「がん患者サロン」が設置されている。ここでは、がん関係者が自由に集まり、意見交換をする活動が極めて活発である。今や、島根県はがん対策、がん経験者支援の最先進県の一つに躍り出たといえるだろう。

 日本対がん協会といって、国のがん対策としっかり連携しながら、民間の立場でそれを補完する活動を展開している団体がある。今年50周年を迎えた。歴史の古さに比して、国民の間での認知はいま一つという残念な状況にある。50周年を機に、その活動を一層強化する必要がある。

 従来、がん検診は日本対がん協会の大事な事業だったが、今後はこの充実に加えて、がんの予防とともにがん患者や家族、がん経験者の支援も強力に展開したい。電話や面談によるがん相談、情報提供、がん患者、家族、市民らが一緒に進めるリレー・フォー・ライフ活動などを大きく広げることを願っている。

 今やがんはだれにとっても無縁ではない病気となった。がん経験者が、がんになる以前と同じような生活を気負いなく営めるように、がんという病気を特別視しない社会の実現を目指して、世の中の理解と支援の充実が強く望まれる。」



(明日この記事に関する意見を少し付け加える予定です。)