アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

海洋交易の時代の浪漫薫るカード織ベルト

2015-06-22 08:31:00 | 染織




製作地 インドネシア・スラウェシ島 南スラウェシ州  
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:ブギス人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿 / カード織(本体)、カード織(補修:白地の布)、平織(補修:赤地の布)


この帯状の布は、先端に重厚なループを有し内部が空洞となるチューブ状に織られた”カード織”の一作例で、スラウェシ島南部に生活する”ブギス人”が19世紀に手掛けたものとなります。

”ブギス人”は航海術・造船術に長け、中近世には”マカッサル人”とともに、この海域の香料・香辛料の交易において重要な役割を担ったことが知られますが、海の向こうから様々な染織技術を受容し、自身の染織文化を形成していったものとなります(現在もカイン・ブギスの織物が著名)。

本品はタナ・トラジャでの蒐集品で、海洋交易の時代にスラウェシ島内陸部のサダン・トラジャ人にもたらされ、祝祭時に聖剣クリスを身につける際の儀礼用ベルトとして使用され、代々継承される伝世品とされる中で残存したものと推察することができます。

帯裏側に全体の3分の1程度の長さで、白地・藍文字のブギス人の手による別織のカード織帯片が付され、裏の残りの部分には経緯木綿双糸で構成される平織の赤布が付されており、トラジャ伝世品として同時代の上質な素材により大切に補修が繰り返された様子が伺えます。

ブギス人が手掛け、サダン・トラジャ人が使用・伝世した、今では失われし古(いにしえ)のカード織作品、海洋交易の時代の浪漫が薫るアンティーク染織の逸品です。