アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

インド中西部 20c前 バンジャーラ族 刺繍サッシュ

2022-03-14 08:16:00 | 刺繍




製作地 インド中西部
製作年代(推定) 20世紀前期
民族名 バンジャーラ族 Banjara
素材/技法 木綿、絹 天然染料主体、一部化学染料 / クロスステッチ、ハーフクロスステッチ
サイズ 幅8cm、長さ79cm

バンジャーラ族はラージャスタンのタール砂漠を出自とし、牛車により塩や小麦を始めとする交易品を、広大なインド亜大陸(西部乾燥地帯)を移動しながらネットワークにより土地土地へと運び届ける陸路運送の役割を担ってきました。

ムガル帝国後期(オーランガゼブ治世)には牛車運搬役に編成され、部族によっては宮廷に仕える仕事も行ないましたが、帝国の没落と英国植民地下の鉄道の敷設等により徐々に職域を失い、現在ではインド中西部~南西部の各地に散らばりその多くは定住生活を行なっています。

本作品に見られる高度かつ洗練された染織・刺繍技術は、古い時代の移動生活の中で、他民族・他文化との交流のうちに培っていったものと考察されます。

天然の茜染めと藍染めの木綿織物、手引きの絹糸と手紡ぎの木綿糸... 素材遣いからも土地と時代に由来する濃密な色香が感じられる、バンジャーラ・アンティーク刺繍の逸品です。





























(光学顕微鏡による画像)




江戸時代 茶地双獣円紋朱雀文錦 仕覆

2022-03-07 07:01:00 | 染織







製作地 日本 京都  
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代
種類 志野香合の仕覆
素材/技法 絹、天然染料 / 表地:変形平地 絵緯浮文平とじ(別絡)、裏地:平織
サイズ 胴周り約15cm、高さ約5.5cm

飛鳥時代に伝来した蜀江錦(経錦)にならい、江戸時代に茶裂として製作されたと考察される”双獣円紋朱雀文錦”の仕覆。

同手模様の錦は明治・大正時代に入り工芸織物として流通したジャカード織製品により有名となりますが、本布はそれに遡る江戸期の作例で、”絵緯浮文平とじ(別絡)”の技法で巧緻に織り上げられたものです。

地組織も絵緯の入れ方・抑え方も一様ではなく、部位により様々な変化・工夫が加えられている様子を下の顕微鏡画像により確認することができます。

繊細でありつつふくよかな織り表情が優美、手織りの一糸一糸に生命が宿っており見飽きることがありません。





























(光学顕微鏡による画像)






江戸時代 志野柚香合

2022-03-07 00:55:00 | 古陶磁




製作年代(推定) 江戸時代
サイズ 外径約5.3cm、内径約3.5cm、高さ約5cm
付属品 仕覆(※別途掲載の記事参照)、箱

貫入と小孔を交えた柚肌の長石釉は和らぎをまとい、蓋と身を跨ぐ火色がつくる景色ひとつひとつに味わいのある、細部まで行き届いた作行の志野柚香合。

香合・仕覆・箱の調和具合は好ましく、愛玩され伝世した茶道具に特有の典雅が感じられます。