アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

20c初 タイ・イサーン 木製漆塗り”蛙”装飾箱(合子)

2022-05-09 07:20:00 | 生活と祈りの道具







製作地 タイ東北部 イサーン地方
製作年代(推定) 20世紀初め
素材 木、漆、顔料
サイズ 全長約16.5cm、幅約13.5cm、高さ約12cm、重さ325g

神仏信仰に縁の吉祥の動物たちが象られた、イサーン地方伝統の木製漆塗り装飾箱。

”蛙”には雨乞い・豊穣・多産の祈りが託されるとともに、箱の中に薬や裁縫道具等を納めておくことで日常生活の中でご利益が得られると信じられてきました。

この地で古い時代に手掛けられた木製織機の綜絖吊り滑車に同種の吉祥の動物たちが彫り表わされているものがあり、織物文化と不可分の工藝品でもあります。

世襲職人の手による彫り意匠は洗練され完成された様式美を備えており、過飾を排したシンプルな造形のうちに信仰のものとしての精神性の深みが実感されます。

目にしていると心和み、手にしていると心落ち着くような、静謐な空気感を有する一品です。






















19cシャム王国 真鍮製”亀形”・蒟醤用合子

2018-03-29 08:08:00 | 生活と祈りの道具








製作地 シャム王国(タイ)
製作年代(推定) 19世紀
素材 真鍮
サイズ 全長(最長部):8.5cm、横幅:5.8cm、高さ:5.5cm、重さ33g

チャクリー王朝期のシャム王国で手掛けられた真鍮製”亀形”の蒟醤(キンマ)用合子、19世紀のアンティークの作品です。

噛み嗜好品”蒟醤(キンマ)”は、近世までの東南アジア諸国において宮廷儀礼・宗教儀式等の公的行事や結婚式等の私的行事双方において欠かすことのできない慣習であり、蒟醤使用に際して用いられる諸道具は、陶磁器・金属器・漆器など様々な工芸技術に反映され(漆器蒟醤手の呼称の由来でもある)、シャム王国美術工芸のいち分野と看做されるほど、意匠・様式の高度化がはかられてきたものとなります。

亀が象られた本合子は、蒟醤材料のひとつ石灰を収めるためのもので、この種の金属製小型合子では、仏教・ヒンドゥの神話に登場する神々や吉祥の動物たちが象られ、高度な打ち出し(レリーフ)の技法により手の込んだ作品が生み出されてきました。

レリーフと全体の造形に甘さがなく、宮廷・貴族調度品として用いられた時代の本物の”蒟醤合子”としての風格と格調の高さが感じられる一品、更に本品の格調を高める要素が経年に由来する真鍮古色とパティナ(緑青)で、19世紀に遡る時代の作品であると考察することができます。

西洋文化の浸透と20世紀中期に出された蒟醤禁止令により、宮廷・貴族層における蒟醤の慣習はほぼ失われ、専門職人の手による道具製作の伝統も失われていきました。
古き良きシャム王国伝統工芸、宮廷・貴族使用の美術調度品の時代が偲ばれる一品です。































●本記事内容に関する参考(推奨)文献




20c初 供物用・亀型脚付籃胎漆器

2017-06-14 00:35:00 | 生活と祈りの道具








製作地 ミャンマー中部 ※東部シャン州の可能性あり
製作年代(推定) 20世紀初頭
素材/技法 竹、木(亀の頭・脚)、漆 / 籃胎(竹編み)、黒漆と朱漆による根来状の塗り
サイズ 全長(頭先~尾部):約36cm、横幅:約27cm、高さ:約10cm、器部の直径:約24cm

ミャンマー中部(※)で20世紀初頭に手掛けられた供物用の亀型脚付籃胎漆器。

敬虔な仏教国ミャンマー(ビルマ)では、仏教法具を始めとする信仰の道具としての漆器製作の伝統を古来より有し、その優れた技術は現在まで受け継がれてきました。

本品は”亀”が象られた供物用漆器で、台部・器部・蓋部の3つのパーツからなり、それぞれが繊細な竹編みにより成型されたもの(脚と亀の頭は木製)、この脚付き・ 蓋付きのドーム型の漆器は”カラト(kalat)”と呼ばれ、仏様に大切なものを奉げるためのもの、寺院・僧院への供物用漆器として、職人への特別な発注により手掛けられる伝統を有してきたものとなります。

台部に脚と頭を付けることで”亀”を表現した比較的シンプルなデザインのものですが、蓋部は丸々とふくよかに成型され、首と尾及び亀の甲には繊細な意匠づけがなされており、ディテイルを良くみると、高度な技術に裏打ちされた見事な完成美を有する作品であることが判ります。

そして黒漆と朱漆の塗りで表わされた深みのある根来の表情は、経年・使用の古色も相俟って、独自の豊かな味わい・格調の高さが感じられます。類例・残存数の限られる資料的に貴重なもの、土地・時代・信仰が育んだ20世紀初頭作”亀型”籃胎漆器の逸品です。






































●参考画像 仏塔が象られた供物用籃胎漆器”カラト”

製作地 ミャンマー東部 シャン州  製作年代 20世紀初頭



●本記事内容に関する参考(推奨)文献


20c初 鳥デザイン 木彫織機パーツ

2017-06-06 09:23:00 | 生活と祈りの道具





製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 20世紀初め
素材 木製
サイズ 全長(幅):約16.5cm、高さ(縦):約4cm、重さ:36g

カンボジア南部で20世紀初めに手掛けられた、鳥デザインの木彫織機パーツ。

本品は綜絖・筬を吊る装置の一部品(滑車と踏み木を繋ぐ吊り棒)で、”馬(heddle horses)”と呼ばれるもの、仏教を守護する聖鳥ハムサが”小鳥”として彫り表わされたもので、素朴な意匠の中にも敬虔な祈りの込められたものとしての瑞々しい生命感と精神性が薫ってまいります。

この種の木彫で飾られた織機は、20世紀半ばからの戦乱の時代には失われてしまっており、本品のようなパーツであっても、欠損の無い完品は残存数の限られる稀少なものとなります。

染織が神仏への祈りとともにあった時代の所産であり、高度な伝統技術を有する職人手仕事から生み出された意匠の完成美、信仰の精神性に惹き込まれる一品です。

























●参考画像 儀礼用絹絣ピダンに描かれた鳥(聖鳥ハムサ)


20c初 魚(双魚)デザイン 織機綜絖吊り滑車

2017-05-17 22:16:00 | 生活と祈りの道具




製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 20世紀初め
素材 木製、金具(車輪軸・フック)
サイズ 横幅:約12cm、縦(金具含む):約5.5cm、重さ:約40g(ひとつあたり)

カンボジア南部で手掛けられた織機綜絖吊り用の木製滑車、吉祥・豊穣を象徴する魚(双魚)がデザインされた20世紀初め頃の作品です。

カンボジアやタイ・ミャンマーなど、古くから染織品が宮廷儀礼や仏教儀礼に纏わる装束や装飾のものとして製作が盛んであった土地では、部品の一つ一つに美しい装飾が施された木製及び金属製の織機が用いられていました。

織機を構成する部品(綜絖(そうこう)・筬(おさ)を吊る装置の部品)として使われていた、この手の込んだ”装飾滑車”からは、敬虔な仏教信仰を背景とする、古き良きインドシナ伝統染織の時代が偲ばれます。

染織が神仏への祈りとともにあった時代の所産であり、高度な伝統技術を有する職人手仕事から生み出された意匠の完成美、信仰の精神性に惹き込まれる逸品です。