アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

江戸期の菊花模様・多色型染め布 二景

2016-01-13 06:35:00 | 染織

●木綿地 菊唐草模様 型染め布


製作地 日本 加賀(?)  
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代後期
素材/技法 木綿、天然染料、天然顔料 / 型染め、両面染め


●絹地 菊花模様 型染め布


製作地 日本 京都  
製作年代(推定) 18世紀~19世紀初期 江戸時代中期
素材/技法 絹、天然染料、天然顔料 / 型染め、片面染め

”菊花”の繊細かつ華やかな色柄を表現するために、並々ならぬ緻密な手技が加えられた江戸中後期の型染め布。木綿地(上)と絹地(下)の作例です。

型紙を用い糊置きと染め及び摺り込みを行った”型染め”作品ですが、模様のディテイルを見ると、極めて繊細な色挿し・色暈し等がなされている箇所を目にすることができ、”友禅染め”の技巧・意匠の表情を同時に薫らせる、”小紋・型友禅”と位置づけられるものでもあります。

江戸中後期の庶民文化成熟の中、”菊観賞”は大きなブームとなり盛んに栽培・品種改良が行われましたが、その”菊花”をいかに美しく、目にする人を唸らせる完成度の高さで染め描けるか... これらの型染め布からは型紙師や染め師の誇りが伝わってくるように思われます。








古のベンガラ色 朱塗り・京つづら

2016-01-11 07:49:00 | 技巧・意匠・素材



製作地 日本 京都  
製作年代(推定) 20世紀初め 明治時代後期~大正時代
素材 竹、漆、顔料(ベンガラ)、和紙

竹や藤のヘギ材(ヒゴ)を組み編みし漆等を塗った箱状の収納具(=葛篭・行李)は、古代に遡る時代に大陸から伝わり、様々な文物の収納・保存に用いられていたことが、正倉院に伝わる収蔵物からも確認することができます。湿度の高い日本において、通気性が良く防虫効果も高い竹編み・漆塗りの葛篭は、着物・文具類を中心とする身の回り品の収納具として長きにわたり用いられ、嫁入り道具ともされてきたものとなります。

本品は平竹ひごを四つ目に編み、和紙を貼って柿渋を塗ってからベンガラの朱漆(本体底部は黒漆)を塗り仕上げた中サイズの葛篭で、形状・サイズから文箱若しくは衣装小物類の収納箱として手掛けられ用いられたものと推察されます。

時代が進むと、居住環境及び服装の変化などから、葛篭が収納箱として用いられる機会・頻度は低下し、木地師や塗り師等の職人が分業で手掛ける”京葛篭”製作の伝統は衰退、また化学塗料や輸入素材を用いた安価な葛篭が市場に流通するようになり、国産素材・手仕事により一つ一つが職人の手で生み出される昔ながらの葛篭はほぼ失われしものとなりました。

古(いにしえ)のベンガラ色、華やかさと深みを湛える滋味あるいろに惹き込まれる一品です。






















染め際の美 江戸期の型染め縞

2016-01-09 05:26:00 | 染織



製作地 日本 ※地域不詳  
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代
素材/技法 木綿、天然藍、天然染料 / 型染め、両面染め
裂サイズ 幅:34cm、縦:132cm

片子持ちの縞柄を、織りではなく染めで表わした江戸時代後期の木綿・型染め布裂。

質感豊かな手紡ぎ・手織りの木綿地に両面から糊置きし”黄”と”藍”を重ね染めすることで緑色を表現した作品で、華やぎ溢れる萌黄の色味、黄が滲み出る”染め際”が見所となります。

染め師が、この”いろのきわ”を意識して染めたものであることはまず間違いなく、江戸染め師の技と粋が伝わってくる一枚です。














明治期 ”雨龍・揚羽蝶”模様 筒描き風呂敷

2016-01-07 00:30:00 | 染織



製作地 日本 ※地域不詳  
製作年代(推定) 19世紀末 明治時代
素材/技法 木綿、天然藍 / 筒描き(手描き・糊防染)
サイズ 136cm(四枚接ぎ)×141cm

”雨龍(あまりゅう・あまりょう)”は角・鱗をもたない龍の幼い姿とされるもので、”雨乞い”の象徴模様として、また”成長”へ向かう願掛け模様等として古来より描かれてきたものとなります。

手紡ぎ・手織りの質感豊かな木綿地(4巾)のうえ、中央に”丸に揚羽蝶”の力強い家紋、周囲に4体の”雨龍”が流麗に描かれ天然藍で深く染められた本布は、日常遣いではなく、祭事の風呂敷(若しくは油単)として特別に手掛けられたものと推察されます。

豊穣祈願のお祭りの際、雨乞いの祈りが込められ奉納品が包まれたもの... ”雨龍”を守り神として伝えてきた土地の氏神様のお祭りで用いられたもの... 節句のお祝いの際に子供の健やかな成長が祈られたもの... 想像は様々な方向へと広がります。