アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

インド 18c スマトラ向け”茜描き染め格子模様”インド更紗裂

2021-02-27 05:01:00 | 染織



製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア Coromandel coast
製作年代(推定) 18世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スマトラ島
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き(カラムカリ)、媒染、片面染め
サイズ 27.5cm×21.5cm

細太の糸を交えた手紡ぎ木綿の触感がある”鬼手(おにで)”木綿地に、カラムカリ(手描き)の技法により細密な格子模様が染め描かれた、18cインドネシア・スマトラ渡りのインド更紗裂。

下に掲載の参考画像の作品のような、上下に鋸歯文様を配したスンバギ様式のインド更紗の本体柄及びサイドボーダー柄であったと考察される部分裂で、縦横ともに明礬媒染(=赤に発色する)の線を約2mm間隔の二重線(二筋縞)で描き上げ、その間に明礬+鉄漿媒染(=紫に発色する)を塗り、茜染料に浸染することで、二色遣いの格子模様を表現したものとなります。

一見するとラフな染めとも思えますが、全形では横幅1m前後・縦2m前後の長さの布上に手描きの二重線をむらなく引き、さらに二重線内の1.5mm程度の隙間(無数の隙間)に点々と紫に染める部分の媒染液を筆(カラム)で置いていくことで細部に破綻の無い模様を完成させており、並々ならぬ手技と根気が加えられた染め布と言うことができます。

和名をあてると「白地細格子花唐草模様」となる一枚で、インドネシア渡りですが、日本渡りであっても違和感の無い、明らかに数寄者好みの意匠のもので、質感ある手触りの鬼手木綿と、緻密でありながら枯淡な雰囲気を湛える手描き格子模様に得も言われぬ滋味が薫ってまいります。

縦横の直線で構成される単純模様でありながら出来上がりの表情は硬く神経質な雰囲気とはならず、大らかで柔らか味や伸びやかさがある、古渡り期インド更紗の実力を感じる一枚です。



























●参考画像 手描きで格子状模様が描かれた近似する意匠のインド更紗





※上画像は京都書院刊「知られざるインド更紗」より転載いたしております












●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

日本 19c後~20c初 木綿”牡丹&散し楓模様”筒描掛け布

2021-02-23 04:25:00 | 染織







製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 19世紀後期-20世紀初め 明治時代
素材/技法 木綿、天然染料、顔料 / 表:筒描(防染)、描き染め(彩色)、裏:紫根染め
サイズ 横76cm、縦100cm

日本で19世紀後期~20世紀初めの明治時代に手掛けられた、木綿”牡丹&散し楓模様”筒描掛け布。

2+半巾の小ぶりの筒描き布で、下隅に配されたフリンジから油箪等の掛け布とされたと推察されますが、紫根染め(病除け)の裏地から赤ちゃん・幼児用の布とされた可能性も考えられます。

いずれにせよ、日常とは異なるハレのものとして紺屋への特別な発注で製作されたことは間違いなく、筒描&描き染めの意匠は細部にまで神経が通い、紫根染め裏地をあわせ、固有の華やぎと格調の高さを纏った作品となっております。

時代は明治に下ると思われますが、江戸職人直系の仕事ぶりが、線描きの”一線一線”、重ね染めや暈しを駆使した染めの”一色一色”、さらには手紡ぎ木綿や縫いの”一糸一糸”から感じ取ることができ、職人の意気・誇りに打たれ、背筋が伸びる思いがする一枚です。

































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

インド 18c シャム向け”円花&瓔珞模様”インド更紗裂

2021-02-19 00:25:00 | 染織








製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア
製作年代(推定) 18世紀
渡来地・使用地 シャム王国 アユタヤ王朝期
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き(カラムカリ)、媒染、防染、片面染め
サイズ 横25.5cm、縦124cm

インドで手掛けられ、アユタヤ王朝期18世紀のシャム王国(タイ)にもたらされた”円花&瓔珞模様”インド更紗裂。

本布は、本体部に大ぶりの”円花模様”と”火焔状模様”、エンドボーダーに多層の”瓔珞模様”が表されたもので、部分裂ながら124cmの長さがあり、完品では横幅1m・長さ3mに達する大判の仏教儀礼用の腰衣”パー・ヌン(pha nung)”であったと考察される一枚です。

何と言っても9層におよぶ”瓔珞模様”の存在感が際立っており、茜赤と黒(焦茶)の深く鮮やかな色味が印象的な”円花&火焔状模様”とあわせ、インド・コロマンデルへの特注品である宮廷様式シャム更紗ならではの格調の高さと荘厳美が濃密に薫ってまいります。

そして特筆すべきは、大小すべてのモチーフが総手描きの”カラムカリ”で染め表されている点で、流麗で躍動感のある毛抜き状の線描きが見事、円花模様のひとつひとつ、瓔珞の部分部分の表情が異なっており、モチーフには硬さが無く細部にまで美の生命が宿っております。

糸・布・染料、職人の染色技術、作品の背景にある精神性、そのすべてが今では失われし再現することの出来ないもの、土地と時代が育んだ木綿染色の孤高の名品裂です。



























●本記事内容に関する参考(推奨)文献