アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19c江戸末 縞木綿(佐治木綿)裂

2016-09-29 00:22:00 | 染織




製作地 日本 兵庫県丹波市(丹波国佐治村) 
製作年代(推定) 19世紀後期 江戸時代末
素材/技法 国産木綿、天然染料 / 平地、縞格子
サイズ 幅(緯):32.5cm、長さ(経):72cm

この”佐治木綿”は、江戸後期に織られ始め、輸入木綿の紡績糸と機械織の布が市場を席巻する明治中後期までの比較的短い期間に丹波国佐治村で製作されたローカルな織物です。

本布のように経糸・緯糸ともに木綿で織られたものと、緯糸に”絹つまみ糸”(引き始めの繭表層の荒糸)を加えた交織の布(後世”丹波布”と呼称された著名織物)があり、いずれも木綿・絹の糸及び染料を土着の素材で完成させている点に独自性を有し、藍にプラスし、はんの木、しきみ、やまもも、栗皮等々の野山で採取される草木や実を様々に掛け合わせて用いることにより、本布にも見られるような独特の色彩感を有する縞織物を生み出したと考察されております。

本品は栗皮から抽出した染料の媒染と天然藍の掛け合わせで発色させた佐治木綿固有の”緑色”が滋味豊かな一枚、手紡ぎ木綿の一糸一糸、草木染料で表わされた一色一色に愛おしさが感じられるような手仕事の縞木綿であり、江戸期”佐治木綿”の貴重な残存作例です。
























●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

18c末 フランス ジュイ”小花文”木版更紗

2016-09-27 00:10:00 | 染織




製作地 フランス トワル・ド・ジュイ(ジュイ工房)
製作年代(推定) 18世紀末
素材/技法 木綿、天然染料(茜・黄)、天然顔料(藍) / 木版捺染、媒染
サイズ 37cm×42cm

本布は18世紀末(1780年~1790年代)に、フランスのトワル・ド・ジュイ(ジュイ工房)で木版捺染と天然染料・顔料により手掛けられた植物図譜・花園更紗等と呼称されるデザイン様式のもの、インド更紗の忠実な模倣を試みていた時代の作例となります。

台地には同時代のインド更紗に近しい紡ぎ・織り感の上手(じょうて)木綿地が用いられており、これはインドからの輸入木綿地とも考察されております。そして緻密なモチーフ構成の蔓枝小花模様が、茜の明礬媒染の”赤”と鉄漿媒染の”焦げ茶”、その掛け合わせの”紫”、”黄”、顔料と思われる色調の”藍””緑”の6色構成で多彩に染め表わされており、高度な媒染技術と巧みな木版捺染の職人仕事により、当時のインド更紗にかなり近い色柄表情の、完成度の高い木綿多色染め物がフランスで生み出されていた様子が伺われます。

この18世紀末はフランス王妃アントワネットのドレスにもこの種のジュイ製白地花模様更紗が用いられていることが確認され、木版捺染と天然染料の媒染の分野において、フランス更紗が技術面でのいち頂点に達した時代であることを指摘することができます。

産業革命により化学染料や機械織りの布が登場し、織り染めが工業化に向かう19世紀半ば以降には失われし表情のもの、初期フランス・ジュイ更紗の薫り高き逸品裂です。
























●18世紀末製作のトワル・ド・ジュイ更紗が貼られたサンプル・ボード
(トワル・ド・ジュイ博物館所蔵)


※上画像は「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」図録より転載いたしております




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

琉球王国 19c 苧麻×芭蕉交織・縞絣布

2016-09-25 00:45:00 | 染織




製作地 琉球王国(現日本国・沖縄県)
製作年代(推定) 19世紀後期 琉球王朝期
素材/技法 苧麻(桐板?)、糸芭蕉、天然染料 / 交織・経縞、経緯絣(藍)、経絣(薄紅)
サイズ 幅(緯):35cm、長さ(経):92cm

本布は白糸(経糸の一部と緯糸)は”苧麻”、茶糸(経糸の一部)は無染・生成りの”糸芭蕉”が配され経縞を形成するとともに、井桁状の文様が藍染めの経緯絣で、また紅花染めと思われる薄紅の斑状模様が同じく先染めの絣として織り表わされたもの、経縞に経緯絣の文様を散りばめた”綾中(アヤンナーカー)” と呼ばれる種類の王朝期・首里織物となります。

苧麻よりも糸芭蕉の糸(繊維)の方が太く硬質でコシがある等の質感に違いが出る中、巧みに整経・織りがなされ歪みやよれ無く端整に織り上げられている点は本織物の技術の高さを示しており、藍の経緯絣と薄紅の斑文を含めて細部に破綻の無い美しい織物に仕上げられております。

また本布に用いられている苧麻糸は白さとともに繊維の透明度が際立ち、本土で織られた苧麻織物(上布)とは表情・質感が異なっており、特定は出来ないものの”桐板(トゥンビァン)”と呼ばれる種類の琉球苧麻織物との関わりを伺わせるものとなります。

白く透明度の高い”苧麻(桐板?)”と、無染・生成りの柔らか味のある茶色を呈する”糸芭蕉”の織り成す縞の清々しさと美しさが際立つ一枚、古くは献上品や交易産品として扱われた種類の織物の格調の高さ・気品と固有の色香に惹き込まれます。























●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

17c末~18c江戸中期 縮緬地・絞り&友禅染め裂

2016-09-21 12:44:00 | 染織




製作地 日本 京都  ※縮緬は中国からの舶載品の可能性有り
製作年代(推定) 17世紀末~18世紀 江戸時代中期
素材/技法 絹(二越縮緬)、天然染料、天然顔料 / 絞り染め(縫い締め)、友禅染め(手描き)
サイズ 横幅:47cm、縦:46cm

本布は極めて繊細な絹糸遣いと織りがなされた二越縮緬地に、縫い締め技法の絞り染めと手描きの友禅染めにより意匠付けがなされた単着物の身頃裂で、色柄及び布地の状態の良さから、打敷とされて仏教寺院に奉納され長らく保存された後、それが解かれたものと考察されます。

本品に用いられている縮緬は当時の上手のもので、中国から舶載された生糸が素材に用いた国産縮緬若しくは中国で織られた渡り縮緬である可能性を指摘できるところとなります。

初期友禅に特有の鈍色・暗色を基調とする落ち着きある色彩で端整に表現された”蔓枝繋ぎ・菊花模様”と、”雲形”と呼ばれる流麗な曲線の縫い締めと紅花染めによるくっきりとした染め分けのデザインが印象的ですが、紅花染めの中にも縫い締めにより染め抜きがなされ、墨描きの蝶と友禅染めの菊花が”嶋模様(中近世染織の本来的な語彙での嶋模様)”として配置されており、これは明らかに中世絞り”辻が花(つじがはな)”を彷彿させる意匠のもの、本布は”辻が花的絞り”+”初期友禅”で彩られた着物裂の残存作例として資料的に貴重なものと位置づけられます。

二百余年~三百年を遡る時代の縮緬地・絞り&友禅染め裂、糸・布・文様の細部まで破綻なく美の生命と精神性が宿った、江戸中期日本染織の技巧の粋を感じさせる一枚です。



























●本記事内容に関する参考(推奨)文献