アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

組織と絣が生み出した特殊な色彩

2015-09-29 00:38:00 | 染織




製作地 カンボジア南部  
製作年代(推定) 20世紀前期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣


布中央部の”オリーブ掛かった山吹色”、この鮮やかかつ深みのある色合いの美しさが印象的な長辺3m強サイズの儀礼用チョンクバンとしての絹絣。

掲載画像の上から下へ... 布の全体から細部へと目を移していくと、プレーンな色(オリーブ掛かった山吹色)と思っていた箇所が、実際には相当に複雑・繊細な経緯の色構成と組織により表現されたものであることに気づき、驚かされることとなります。

具体的には、黄×藍の綾地組織の中に、ラックの赤、掛け合わせの臙脂や黄緑、班状の絣糸(緯糸)が適度に散りばめられることにより、微妙な色の凹凸と立体感が加わり、全体として”何色とも形容しがたい”独自の色表情を呈する色彩が生み出されていることが判ります。

上下のボーダー部分は文様が描かれた絣ですが、布中央の一見すると単色と思われる部分も実は手の込んだ絣である... ここに本作品の素晴らしさ、そしてクメール染織・絹絣の技術の真髄(の一端)を見出すことができるようにも思われます。















カンボジア渡りの青花”飛龍・鉢花文”碗

2015-09-27 12:55:00 | 技巧・意匠・素材






製作地 中国 景徳鎮等の民窯  
製作年代(推定) 17世紀 明朝末~清朝初期
渡来地・使用地 カンボジア
サイズ 口径18.5cm、高さ8.5cm

粗野とも言える大らかな筆致ながら、器からはみ出す勢いの奔放で生命力あふれる”龍”の染め意匠に心惹かれるカンボジア渡りの青花碗(鉢)。

”蛇龍神ナーガ”が王国・仏教の守護神として崇められてきたクメール王国において、”龍”の染付けはとくに好まれたものと思われます。そして見込みに描かれた”鉢花文様”はカンボジアの絹絣に描かれる”供花文様”と符号点を見出すことができます。
















●参考画像 クメール絹絣に描かれた龍(ナーガ)と鉢花としての供物文









※上画像は福岡市美術館刊「カンボジアの染織」より転載いたしております



チャム人のモザイク文様絹絣

2015-09-25 00:33:00 | 染織



製作地 カンボジア・コンポンチャム  
製作年代(推定) 20世紀初め
民族名 チャム人
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣

カンボジア南部のコンポンチャムに生活する”チャム人”の手による、格子織物を思わせるモザイク様のデザインが新鮮な腰衣(サンポット)としての絹絣作品。

高度な天然染色によって表現された色彩の美しさが筆頭に挙げられる作品ですが、拡大画像で確認できる、綾織による斜めに走る畝、繊細な色グラデーション(ラックの赤~掛け合わせ色の臙脂)及びランダムな絣足が、この絹絣に絶妙な躍動感とリズムを与えていることが判ります。

遊び心を交えつつ、絣の特性を巧みに生かした織物表情が見事と言える一枚です。














下は同じカンボウジュ種絹とラック・プロフー等の天然染料主体でつくられた絹格子織物で、均等平地でタイトに織り上げられた組織表情が美しく、経・緯の色の配色が秀逸な古手の作例です。

拡大画像で目に出来るように、色を染め分けた糸が用いられているかのごとき経・緯の色の溶け込み(同化)具合は興味深く、高度な視覚効果の計算がなされているようにも思われます。


●参考画像 同じカンボウジュ種絹と天然染料(主体)でつくられた絹格子織物









製作地 カンボジア南部  
製作年代(推定) 20世紀前期~半ば 1940-50年前後
民族名 チャム人 若しくは クメール人
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料主体、化学染料(紺紫) / 均等平地・格子織

クメール絹絣 ナーガ卍繋ぎ文様の変遷

2015-09-23 08:28:00 | 染織












製作地 カンボジア南部  
製作年代(推定) 19世紀半ば~20世紀前期まで
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣

具象から抽象へ... 儀礼用の絹絣上に描かれた、クメール王国と仏教を守護する”蛇龍神ナーガ”の文様の変遷を伺うことができる作品たち。

一見すると抽象化が進み卍の記号と化したと思われる文様も、点・線・色で構成されるディテイル部分に”ナーガの目や口”(の名残)を潜ませるように染め描いている様子を確認できます。

並々ならぬ信仰(祈り)の強さ、並々ならぬ括り・染め・織りの技術の高さがなければ現われ出ることのない、クメール染織固有の唯一無二の絣文様であり表現方法です。

仏教供物用のボウル型・竹編み籠

2015-09-21 05:40:00 | 技巧・意匠・素材



製作地 カンボジア南部  
製作年代(推定) 20世紀前期
素材/技法 竹、樹脂/組み編み、織り編み

組み編みと織り編みの技法を巧みに交え、ふくよかなボウル型の胎が見事に成型されたカンボジアの竹編み籠。クメールの人々の織物の才が発揮された作品とも感じられます。

組織(編み)変化の部位は弧及び尖塔状の文様ともなっており、托鉢ボウルを想起させる形状を併せ、事前知識が無くとも”仏教に縁のもの”という匂いを感じ取れるようにも思われます。

両手で持った際の、掌(てのひら)の馴染み感でも愛着の深まる一品です。