アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

ザンスカール ヤクウール絞り染めシューズ

2016-07-29 00:45:00 | 民族衣装







製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 ザンスカール
製作年代(推定) 20世紀半ば
素材 ヤクウール、染料、革

このヤクウール絞り染めシューズは、ザンスカールに生活するチベット民族系の人々が祝祭時に用いたもので、彼らが放牧し育てるヤク牛のウールを素材に、綾地に織り絞り染めにより”ティグマ”と呼ばれる吉祥文様を表わした布を主体に、底部には革を張り、手仕事の縫い刺しにより仕上げたものとなります。20世紀半ばに手掛けられた古手の作例です。

丸の中に十字を描く絞りモチーフは、チベット仏教の伝統のもと古来より受け継がれてきたもの、日本では江戸時代に“蒙古絞り”としてもてはやされたものとも縁の深い染織の意匠となります。

完全なる手仕事の紡ぎ・織り・染め、縫いと刺し子、底張りの革が覗く先尖型のデザイン、作品全体からかもされる新鮮な様式美、可憐な意匠表情に目を奪われる一品です。















ザンスカール ヤクウール絞り染め・肩掛け

2016-07-10 12:47:00 | 民族衣装








製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 ザンスカール  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族 チベット系民族
素材/技法 ヤクウール、染料(天然染料+化学染料) / 綾織、絞り染め、三枚接ぎ

ジャンムー・カシミール州の一つ一つの地方は山岳と渓谷によりそれぞれがおおむね隔絶しており、このザンスカール地方も山々に囲まれ他とは孤立した山麓及び渓谷地帯となります。それゆえ染織・衣装作品について、独自性豊かな意匠・技巧のものが培われ継承されてきました。

このヤクウール絞り染め・肩掛け”ティグマ・ボコ”は、ザンスカールに生活するチベット民族系の人々が日常生活の防寒用に用いたもの、彼らが放牧し育てるヤク牛のウールを素材に、綾地に織った布を絞り染めにより文様を染め出すことを技巧上の特徴として手掛けられてきました。

丸の中に十字を描く絞りモチーフは、チベット仏教の伝統のもと古来より受け継がれてきたものですが、日本では江戸時代に“蒙古絞り”としてもてはやされたものとも縁の深い染織の意匠です。

標高4千mを越えるラダック地方、厳しい自然環境の中で生活を続けてきた人々が生み出し、代々継承してきた伝統衣装ならではの力強い生命感に魅了される一品です。






















19c後(ドグラ期) カシミヤ刺繍衣装”チョーガー”

2016-06-07 00:30:00 | 民族衣装








製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 シュリーナガル  
製作年代(推定) 19世紀後期 ドグラ期
素材/技法 カシミヤ山羊の内毛(うぶ毛)、天然染料 / 2/2綾組織、刺繍、アームリカル

本チョーガーは19世紀後期のドグラ期(英国植民地下のヒンドゥ藩国)のシュリーナガルで手掛けられたもので、2/2綾組織で織られた淡黄色のパシュミナ地に天然染料で色付けした多色のカシミヤ糸を素材に繊細な刺繍(アームリカル)により装飾がなされたものとなります。

前開き・長丈でゆったりと羽織るジャケットタイプの上着”チョーガー”は、トルコ・アフガン等の宮廷衣装の影響を受けムガル期に発展した貴族男性装束のひとつですが、これをカシミヤ(パシュミナ)という特殊な素材で手掛けた点にムガル(インド)染織・衣装の独創性が感じられます。

本品はチョーガーとしてはやや小さめで、サイズ面と色柄の意匠から鑑み若年者用と推察されますが、地には極めて繊細な糸遣いで密に織られた布が用いられており、緻密なステムステッチとダーニングステッチによる小さな花弁を無数に散りばめた”ボテ”や”花唐草”の刺繍は何とも瀟洒で秀逸、作品全体から貴族装束としての格調の高さと気品が薫ってまいります。

大小の欠損はあるものの、首周り・背・肩・袖・裾等の最も重要と言える刺繍部分はむしろ状態良好で美しさが保たれており、巧緻なつくりの組み・刺しの円盤状ボタンがオリジナルのまま残っている点など、欠損を補って余るほどの魅力をディテイル各所から感じられるところとなります。

19c後期パシュミナ刺繍チョーガーの薫り高き逸品であり、資料的にも極めて貴重な完品です。






















●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

ザンスカール ヤクウール絞り染めコート

2016-06-04 00:30:00 | 民族衣装





製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 ザンスカール  
製作年代(推定) 20世紀前期
民族名 チベット系民族
素材/技法 ヤクウール、天然染料 / 綾織、絞り染め、パッチワーク

ジャンムー・カシュミール州の一つ一つの地方は山岳と渓谷によりそれぞれがおおむね隔絶しており、このザンスカール地方も山々に囲まれ他とは孤立した山麓及び渓谷地帯となります。それゆえ染織・衣装作品について、独自性豊かな意匠・技巧のものが培われ継承されてきました。

この多彩な絞り染めコート”ティグマ・コス”は、ザンスカールに生活するチベット民族系の人々が祝祭時に用いた盛装用衣装で、彼らが放牧し育てるヤク牛のウールを素材に、綾地に織った布を絞り染めにより文様を染め出すことを技巧上の特徴として手掛けてきたものとなります。丸の中に十字を描く絞りモチーフは、チベット仏教の伝統のもと古来より受け継がれてきたものですが、日本では江戸時代に“蒙古絞り”としてもてはやされたものとも縁の深い染織の意匠となります。

本品は手紡ぎのヤクウールを綾地で織り、黄・臙脂・藍の天然染料により巧みな色掛け合わせを交えて絞り意匠を染め上げ、繊細に接ぎ合わせた20c前期の60~80年前後を遡る時代の作例で、現在ではこの素材感及び繊細な織り・染め・接ぎの風合いは失われしものとなりました。

染色の完成度の高さは特筆すべきもの、伝統に培われた独自のデザイン様式、心の入った手仕事のものならではの繊細かつ力強い意匠表情に魅了されるチベット系民族衣装の一名品です。