アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

アラベスク模様

2021-01-18 06:36:00 | 技巧・意匠・素材



●インド更紗 インドネシア・スマトラ島 イスラーム王族・貴族向け

製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア Coromandel coast
製作年代(推定) 18世紀-19世紀初め
渡来地・使用地 インドネシア・スマトラ島
素材/技法 木綿、天然染料 / 木版捺染及び描き染め、媒染、防染、片面染め







(写真 イラン・エスファハーン州 エスファハーンにて)

パキスタン・タキシラ ガンダーラ遺跡のストゥッコ像

2021-01-14 12:45:00 | 技巧・意匠・素材


ストゥーパ(仏塔)を装飾するストゥッコ製レリーフ中の仏(菩薩)坐像



頭部が破損若しくは切り出されたストゥッコ製の仏(菩薩)坐像

今般ウェブサイトでご紹介の「ストゥッコ・菩薩頭部像」は、数十~百年前の遺跡発掘時にこのようなかたちで頭部が切り出されたものとも推察できます。

パキスタン・タキシラのガンダーラ遺跡においては、ユネスコ世界遺産登録がなされた現在は、遺跡はしっかりと管理され保存修復活動が行われております。




中心部を砕石でかたちづくり、外側に多孔軟質のカンジュール石を積み上げてかたちを整え、石灰を素材とするストゥッコ(化粧漆喰)で表層を仕上げるとともに、ストゥッコで作られたレリーフで全体を荘厳するという、タキシラのストゥーパ(仏塔)製作方法が解説されております。

(写真 パキスタン・パンジャーブ州 タキシラにて)

19c英領インド時代ビルマ シルバー彫金ボウル

2018-05-23 00:15:00 | 技巧・意匠・素材




製作地 ビルマ(ミャンマー) 英領インド時代
製作年代(推定) 19世紀半ば~後半
素材 シルバー
サイズ 口径:約11cm、胴径:約14cm、高さ:約8cm、底径:約10cm、重さ148g

英領インド時代のビルマ(ミャンマー)で手掛けられたシルバー彫金ボウル、19世紀半ば~後期のアンティークの作品です。

この見事な打ち出し・浮彫のレリーフで装飾がなされたシルバー彫金ボウルは、ビルマ現地で托鉢用の鉢を意味する”ザベイク(thabeik)”と呼ばれる品モノで、実際には托鉢に用いられることは無く、宮廷貴族・富裕層(統治者の英国人含む)を中心とした人々の装飾用の調度品として手掛けられる伝統を有してきたものとなります。

銀を素材に巧みな打ち出し及び彫金により立体感豊かなレリーフ入りのボウルに仕立てられますが、デザインは”仏教・ヒンドゥ”に由来する神話や説話(ジャータカ等)の場面、 宮廷貴族装束による踊り等の宗教儀式の場面、またミャンマーの土着の”ナッ神”に由来するモチーフなど専ら信仰から題材がとられており、漆器・染織・木彫等とともに信仰と不可分の美術工芸として技術が高められていった様子を伺うことができます。

本ザベイクは胴径約14cmのふっくらとした造形の器側面に、様々な仕草の貴族装束姿の人物6体が立体感豊かかつ細やかに表わされた作品で、瓔珞や唐草等の背景モチーフを併せて卓越した彫金技術と作品の完成度の高さが感じられます。取り分け本品は人物の表情や仕草の硬さの無い生き生きとした表現が秀逸で、衣装の細部にわたり見飽きることがありません。

高度に熟練した世襲の銀細工職人(シルバースミス)が、貴族・富裕層の求めにより一点一点の作品を丹念な手仕事により製作にあたったものであり、19世紀コロニアル美術工芸期の時代の精神性が伝わる逸品です。




































孔雀デザインの織機綜絖吊り木製滑車

2018-02-13 00:53:00 | 技巧・意匠・素材




(写真 タイ・チェンラーイ県 チェンセーンにて)


染織が宮廷儀礼や仏教儀礼に纏わる装束や装飾のものとして製作が盛んであった土地では、部品一つ一つに美しい装飾が施された木製及び金属製の織機が用いられてきました。

織機を構成する部品(綜絖(そうこう)・筬(おさ)を吊る装置の部品)として使われていた、この手の込んだ”装飾滑車”からは、敬虔な仏教信仰を背景とする古き良きインドシナ伝統染織の時代が偲ばれます。染織が神仏への祈りとともにあった時代の所産です。

美しき直し

2018-01-31 00:58:00 | 技巧・意匠・素材












19世紀末~20世紀初めの百数十年前に手掛けられたカンボジア絹絣に見られる小穴の直し。

この鈎針編みによる直しも五十年以上は遡る古い時代のものと思われますが、糸遣い・編み縫いの手仕事が極めて繊細で美しく、目にしていると気が鎮まってくるような心地がいたします。

この絹絣腰衣を大切に想う気持ちが伝わってくる直しであり、これは欠点(欠損)ではなく、むしろ本布の魅力を高める要素となっているようにも感じられます。

見た目だけでなく、直しに込められた精神性が美しいと感じられる一枚です。