アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

モアレ(波地紋)の美

2010-04-26 05:32:00 | 技巧・意匠・素材






製作地 ウズベキスタン・フェルガナ州マルギラン  
製作年代 近年 
素材/技法 絹(経)×木綿(緯)、天然染料 / 経地合・経絣

ウズベキスタンの地で手掛けられてきた”アドラス絣”とは、緯糸に太目の木綿糸が用いられ、その緯糸(木綿糸)をびっしり埋め尽くすように、高密度の経糸(細手の絹の絣糸)の整経・織りがなされる、絹×木綿”交織”の”経地合・経絣”の絣織物です。

経絣ながら横方向に”畝”が現れる点が他の絣織物ではあまり見られない独自性であり、”横畝”の緻密な連なりの中で、意図的に布面に”モアレ”を表出させる技巧が生み出されました。

モアレの波状(木目状)文様は地紋のような立体的な表情を有するものであり、”絣文様+モアレ文様”による、類稀な美を奏でる作例を目にする場合があります。もちろん伝統に培われた高度な技巧を継承する、職人手仕事あっての作品となります。

経際(たてぎわ)の美

2010-04-24 05:43:00 | 技巧・意匠・素材






製作地 ウズベキスタン・フェルガナ州マルギラン  
製作年代 近年 
素材/技法 絹(経)×木綿(緯)、天然染料 / 経地合・経絣

ウズベキスタンの絣織物は、経糸を括り染めして絵柄を表現する”経絣”が伝統であり、経(縦)方向に”絣足”や、括り染めの際に生じる”滲み”が現れることとなります。

緯絣とは異なる、経絣独特の”経際(たてぎわ)の美”。もちろん天然染料を用い、昔ながらの手括り等の手仕事により手掛けられた作品のみが有する特徴であり魅力となります。

アドラス地・経絣の布地

2010-04-22 05:57:00 | 染織




製作地 ウズベキスタン・フェルガナ州 マルギラン 
製作年代 近年
素材/技法 絹(経)×木綿(緯)、天然染料 / 経地合・経絣











天然色染めながら、絣の柄と色味がここまでくっきり濃く力強く感じられるのは、高密度の”経地合”であること、太めの緯木綿糸の”畝”によって布に陰影(立体感)が加わり、それによる視覚効果で色がより濃く見えることが要因となります。また色の掛け合わせも卓越しております。

この表情・表現手法は、この土地の千年を超える絣織物の歴史の中で培われてきたものとなります。括り・染め・整経・織り、いずれを取っても他者が容易に真似のできるものではありません。

マルギランの折り畳み刺繍帽子

2010-04-20 06:49:00 | 民族衣装













製作地 ウズベキスタン・フェルガナ州 マルギラン 
製作年代(推定) 20世紀半ば~後半

シルクロード交易の要衝であり、古い時代(千年を超える)からの絹及び絹織物の生産地として知られる”マルギラン”で手掛けられたシルク刺繍の女性用帽子”ドッピ”。

縁に黒の絹ベルベットを配し、総刺繍+手縫いの丹念な手仕事により仕立てられたもので、折り畳みが出来るつくりとなっております。クロス(ハーフクロス)ステッチを主体に描かれる精緻な花文様とその色遣いが何とも可憐で、目にしていると心が晴れやかになる作品です。

ヌラタの花刺繍

2010-04-18 05:38:00 | 刺繍


















製作地 ウズベキスタン・ヌラタ  
製作年代(推定) 19世紀後半
素材 木綿地、絹刺繍、天然染料

上の画像は、ウズベキスタン・ヌラタの地で19世紀後半に手掛けられた礼拝用刺繍布”ジョイナモッシュ”、一つの布上に刺し描かれた花モチーフの数々となります。

この”ヌラタ(Nurata)”は、ブハラとサマルカンド、歴史に名を刻む二大オアシス都市に挟まれるナヴァーイー州、その北部に位置する街であり、街の名前では位負けしますが、刺繍に関しては、ブハラ・サマルカンド・シャフリサーブス等と並び称される優れた作品が生み出されました。

上に並ぶ花刺繍は、手紡ぎ・手織りの木綿布をベースに、天然色染めの絹糸で刺されたものとなりますが、花のデザインがそれぞれ異なるとともに、花や茎葉の色についても、良く見ると、一つ一つとても繊細に色彩(染め色)の変化が加えられている様子を確認することができます。

ヌラタの花刺繍は、ムガル帝国(インド)で手掛けられた刺繍や更紗のデザインの直接的影響を受けたものであるという説があります。説の真偽については判りませんが、この瀟洒に完成されたデザイン様式と色彩表現は、ブハラやサマルカンドの作品とは異なる、独自の血脈の存在を伺わせるものであることは確かなように感じます。




手描きインド更紗
製作地 インド西部(ムガル帝国) 製作年代 17世紀
(東京国立博物館所蔵品)