アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19c ブロケード裾布&縞絣(文様切替) 儀礼用絹絣

2017-05-31 00:39:00 | 染織






製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 19世紀後期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣、ブロケード(経紋織)、裾布の絣は平織
サイズ 縦(緯)96cm(本体82cm+裾布14cm)、横幅(経)326cm

カンボジア南部で19世紀後期に手掛けられた宮廷・寺院儀礼用の絹絣”ピダン”。

王国を守護する”蛇龍神ナーガ”がジグザグ(山道)模様で表わされた3mサイズの作品で、布中央部で文様切り替えとなっており、片方(右側)には絣入りの多色縞が縦方向(緯)に細かく配された特殊なデザインのもの、さらに本品には絣とブロケード(経紋織)が一つの織物に同時に表わされた細幅(14cm巾)の布が裾布として付されており、通常とは異なる特別な宮廷儀礼・宗教儀礼のための腰衣チョンクバン或いは掛け布ピダンとして用いられたことが伺えます。

そして単にデザイン・仕様が特殊なだけでなく、絣のつくりは極めて手が込んでおり秀逸、ラック染めの赤は朱・赤・紅と繊細な色の変化があり、プロフー染めの黄(山吹)は色味が鮮やかで力強く、プロフーと藍が掛け合わされた緑の色グラデーションには得も言われる豊かな味わいがあり、斑状の白絣が入った多色縞の巧緻な表現をあわせ、並々ならぬ高度な括り・染め・織りの技術により製作された作品であることを指摘することができます。

裾布の細幅織り布は、これ専用の機を用い緻密な意匠の絣と経紋織技法のブロケードを一枚に織り込んでいく特殊なもの、20c半ばには製作の伝統が失われてしまっており、織り始終が整い”寺院文様”の織り込まれた本布は、これのみで資料的に極めて貴重なものと言えます。

一枚の布に様々な技巧が駆使された織物、美の生命が細部に宿るクメール染織の名品です。















































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

19c ”ナーガ&聖鳥文” 宮廷儀礼用絹絣

2017-05-29 00:26:00 | 染織





製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 19世紀後期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣
サイズ 縦(緯)91cm×横幅(経)346cm

カンボジア南部で19世紀後期に手掛けられた宮廷儀礼用の絹絣”ピダン”。

布全面に大小の蛇龍神”ナーガ”が躍動感たっぷりに菱状に配され、その中に多数の聖鳥ハムサが散りばめられるように描かれたもので、”ハムサを守護するナーガ”と解釈されるデザイン構成の一枚、上下のボーダー柄を含めて括り染めの細密度合いと精緻さは特筆すべきものであり、色彩の力強さを併せ、目にするものを圧倒する存在感と精神性を薫らせます。

本品のように、龍(ナーガ)の頭や目がしっかり描かれている(抽象化・簡略化されていない)モノは、アンティーク・ピダンの中でも年代の遡る作品に多いことが知られており、残存する類例及び織り布の質感から、本品は19世紀後期に王都プノンペンの宮廷内若しくはコンポンチャムで手掛けられたものと考察されます。

この”ナーガ&聖鳥文”ピダンは、王都宮廷において、取り分け完成度の高さを追求した種類の織物で、同種デザインのものがシャム王国を筆頭に、遠くはヨーロッパやアメリカに19cを中心に贈答品等として渡り、現在それらは各国の著名博物館に所蔵されている様子を確認できます。

近世クメール染織が素材面・技術面で最も充実した時代の一級作品、貴重な残存作例です。











































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

20c前 カンボウジュ種絹×天然染色 格子織布

2017-05-27 02:00:00 | 染織





製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 20世紀前期 1930~40年前後
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 均等平地、格子織
サイズ 幅(緯)62cm×全長(経)166cm

カンボジア南部の地で20世紀前期に手掛けられた絹格子織布”クロマー(krama)”。

経・緯ともにカンボウジュ種絹の手引き細糸を素材に緻密かつ端整な均等平地の格子で織り上げられた一枚で、巧みな配色・構成で表現された格子の色彩の美しさが際立つ作品です。

一見すると化学染料とも思えるような鮮やかな色が並びますが、実際には”プロフー”二種媒染の山吹と緑、”ラック”二種媒染の赤と紫、これに無染の白を加えて織り上げたと考察されるもので、染色技術の高さが光るとともに、高度な視覚効果の計算がなされている様子が伺えます。

鮮やかな色味で目に映るオレンジ色は、実際は”山吹”と”赤”のドット(点)で構成されたもの、経緯同密度の”完全均等平地”で緻密に織り上げることで、この鮮やかかつ力強い色彩が表出するものとなります。緑色や紫色の鮮やかさも経緯のドットで生み出されていることが判ります。

”完全均等平地”は、一織り一織りに織り手の手指の繊細な神経が加えられること無しには完成に至らないもの、高度な手仕事による所産であり、今では失われし素材・技術の作品です。





























●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

19c末~20c初 絹玉虫織・腰衣”サンポット・パムアン”

2017-05-25 00:26:00 | 染織








製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 19世紀末~20世紀初め
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 平織、赤(経)×緑(緯)の玉虫織
サイズ 縦(緯)88cm×横幅(経)304cm

カンボジア南部の地で手掛けられた絹玉虫織・腰衣”サンポット・パムアン”。

”パムアン(pha maung)”は、経緯同色若しくは経緯異色で織られる”単色の衣布”を指すもので、祝祭時や寺院詣で等の正装用、王宮における儀礼用として色に意味づけがなされ、主に長丈のチョンクバン様式の腰衣として着用される伝統を有してきたものとなります。

経緯異色のパムアンの中で、本布のように経に赤、緯に緑を配し玉虫光沢を表出させた緑色の織物は”コー・ティア(アヒルの首)”と呼ばれ、正装用の特別な腰衣として好まれてきました。

本パムアンは、上質なカンボウジュ種絹を素材に、経はラック染めの赤、緯はプロフーの鉄媒染と思われる緑に染められた糸を配し、平地の玉虫織で織り上げたもの、布両端には”赤×赤”の赤地と”赤×黄”の山吹地(細縞)のボーダー柄が表わされており、色柄に格別の完成度の高さが感じられ、特別な用途でのチョンクバンとして製作・使用されたことが伺える作品です。

目の詰んだ緻密な織りから表出される玉虫光沢には得も言われる気品と格調の高さが感じられ、高度な天然染色による色彩の美しさ・力強さは並々ならぬもの、19c末~20c初期作”サンポット・パムアン”玉虫織布の一級作品であり、今では失われし古(いにしえ)の絹織物です。






















●参考画像 絹絵絣ピダンの中に描かれた緑色のサンポット・パムアン






●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

19c末~20c初 儀礼用・絹絞り染め布

2017-05-23 00:46:00 | 染織





製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 19世紀末~20世紀初め
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 巻き締め絞り、縫い締め絞り
サイズ 78cm×79cm

カンボジア南部の地で19世紀末~20世紀初めに手掛けられた儀礼用の絹絞り染め布。

本布のような四隅にコーナー柄を有する正方形に近い作品は、儀礼用の頭巾”キエト”或いは袱紗(小型のふろしき)として用いられたと考えられています。本品は約80cm四方の大きさがあり、頭巾として用いられた可能性が高いと推察できるところとなります。

カンボウジュ種絹を素材とする柔らかくかつ目の詰んだ上質な平織り布を台地に、四隅に縫い締め絞りの三重の弧文様、中央部には大小の一目絞りが菱格子状に配され、黄茶色の下染めのうえに鉄媒染によるラック染めと思われる紫掛かった臙脂色の染めがなされたもので、繊細な手仕事による絞りと深みのある天然染色の色彩に得も言われぬ豊かな味わいが感じられます。

特筆すべきは、この種の正方形・左右上下対称柄の絞り染めは布を折り畳んで”重ね絞り”を行なうのが通常ですが、本作品は一目ごと個別に巻き・縫いの絞りを行なっている点で、ディテイルを良く見るとパターンをわざと崩す遊びの要素を目にすることができ、相当に手の込んだ特殊な技巧が加えられている様子を確認できます。

布全形がしっかり保たれた本デザイン様式・サイズの絹絞りは極めて貴重なもの、現在では失われし伝統の所産であり、幻の染織とも呼ばれる稀少性・資料的価値を有する染織作品です。



























●本記事内容に関する参考(推奨)文献