製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 19世紀後期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣、ブロケード(経紋織)、裾布の絣は平織
サイズ 縦(緯)96cm(本体82cm+裾布14cm)、横幅(経)326cm
カンボジア南部で19世紀後期に手掛けられた宮廷・寺院儀礼用の絹絣”ピダン”。
王国を守護する”蛇龍神ナーガ”がジグザグ(山道)模様で表わされた3mサイズの作品で、布中央部で文様切り替えとなっており、片方(右側)には絣入りの多色縞が縦方向(緯)に細かく配された特殊なデザインのもの、さらに本品には絣とブロケード(経紋織)が一つの織物に同時に表わされた細幅(14cm巾)の布が裾布として付されており、通常とは異なる特別な宮廷儀礼・宗教儀礼のための腰衣チョンクバン或いは掛け布ピダンとして用いられたことが伺えます。
そして単にデザイン・仕様が特殊なだけでなく、絣のつくりは極めて手が込んでおり秀逸、ラック染めの赤は朱・赤・紅と繊細な色の変化があり、プロフー染めの黄(山吹)は色味が鮮やかで力強く、プロフーと藍が掛け合わされた緑の色グラデーションには得も言われる豊かな味わいがあり、斑状の白絣が入った多色縞の巧緻な表現をあわせ、並々ならぬ高度な括り・染め・織りの技術により製作された作品であることを指摘することができます。
裾布の細幅織り布は、これ専用の機を用い緻密な意匠の絣と経紋織技法のブロケードを一枚に織り込んでいく特殊なもの、20c半ばには製作の伝統が失われてしまっており、織り始終が整い”寺院文様”の織り込まれた本布は、これのみで資料的に極めて貴重なものと言えます。
一枚の布に様々な技巧が駆使された織物、美の生命が細部に宿るクメール染織の名品です。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献