製作地 インドネシア・スラウェシ島 西スラウェシ州若しくは南スラウェシ州
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:ママサ・トラジャ人若しくはサダン・トラジャ人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染(泥の鉄媒染含む)、両面染め
サイズ 56cm×254cm
全長2m半に達する存在感溢れる意匠の本布は、祭事の幟幡として用いられたと考えられておりますが、布を所蔵・継承してきたサダン・トラジャ人の間でも明確な記録(記述)は残されておらず、出自や製作当時の用途等についておぼろな口承(記憶)のみが今に伝わる作品です。
明らかなのは、本布がスラウェシ島のトラジャ地域で手掛けられたものであること、今では製作されていない途絶えた伝統の染織であること、外来のインド更紗等とともに聖なる布”マア”と看做され、長い年月にわたり大切に保管・伝世がなされてきたという事実及び現在の姿となります。
作品の特徴としては、手紡ぎ・手織り木綿地に複数の媒染剤の描きが布両面から行なわれ、天然染料の浸染により模様付けがなされている点で、泥内の鉄分を利用する所謂泥染めが併用されている様子も伺われ、一見すると素朴な色柄の染め布ながら、百余年を遡る時代の木綿染め布としては、専門的な媒染技術(知識)に裏打ちされた高度な染織作品と言うことができます。
インドネシアの伝統染織と位置づけられる蝋を用いた防染による染め物(=バティック)ではなく、防染を前提としない媒染を主技法とする染め物(=インド更紗的染色)を志向している点に、この種の古い時代のトラジャ染織の独自性と特殊性があると考察されます。
(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)