アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

”生命樹”デザイン 合金製・彫金アムレット

2016-06-30 00:34:00 | 技巧・意匠・素材


















製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 シュリーナガル
製作年代(推定) 18-19世紀
素材 合金製、色ガラス

本品はインド・カシュミール地方シュリーナガルの地で、18世紀~19世紀に手掛けられたと推定できるもので、銀製ではなく合金製のものである点が第一の特徴、しかしながら銀製の代替品やフェイク品ではなく、当時の世襲の熟練彫金職人(シルバー・スミス)が合金の地金を素材に、巧みな鍛造・打ち出し・彫金・ろう付け等の技巧を駆使して生み出した一級の工芸作品であることをアムレット本体及び手の込んだチェーンとカザリパーツのつくりから指摘することができます。

このデザイン様式の装身具は、主にペルシャ・中央アジア・パキスタン・インドのイスラーム・コミュニティの間で古い時代から使用されてきたものとなります。赤は魔除け及び生命力を表す色であり、この種のアムレットにはカーネリアンやガーネット等の色石若しくは色ガラスが用いられ、本体は唐草・生命樹・羊の角等の吉祥・豊穣を表す彫金モチーフで彩られてきました。

豊穣を表す”生命樹”が力強く躍動感溢れる刻線で描かれ時代物固有の色表情と深みを湛える赤色ガラスがセットされた本体部、繊細なパーツで構成されるチェーンと垂れカザリ、高度かつ繊細な手仕事による意匠の完成美に魅了される一品です。




●本記事内容に関する参考(推奨)文献


マニ車と紡錘車と

2016-06-29 00:33:00 | 旅の一場面






(写真 インド ジャンムー・カシュミール州 ラダック地方 ラマユル近郊にて)

マニ車を回すように、生活の中で時間さえあればスピンドル(紡錘車)を回し続け糸を紡ぐ行為は祈りに通じているのかもしれません。

19c初 カシミヤ綾地・刺繍”アームリカル”(3)

2016-06-28 00:38:00 | 刺繍
















製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 シュリーナガル  
製作年代(推定) 19世紀初め アフガン期
素材/技法 カシミヤ山羊の内毛(うぶ毛)、天然染料 / 2/2綾組織、刺繍、アームリカル
サイズ 横幅67cm、縦42cm

ムガル治世下に”綾地綴織”の織物として技術の完成をみたカシミール・ショールですが、織物一枚の製作にあまりに労力・時間が掛かりすぎ、国内外からの需要が高まる中、綴織一枚織物(カニカル)に比べ製作時間の短縮が望める刺繍物(アームリカル)がアフガン期に登場します。

しかしながら、目にした際に明らかに刺繍と判別できるようなものは、貴族・富裕層のための高級衣料”カシミール・ショール”として受け入れられるものではなく、代用品及び汎用品のレベルを遥かに上回る高度な刺繍技術による細密刺繍ショールが生み出されることとなります。

本品は2/2綾組織によるオフホワイトの織り地が極めて高品質で、高級パシュミナたる織り密度の高さと柔らか味を兼ね備えており、それ故に織り地と刺繍の糸目とが見事に馴染んでおり、肉眼で一見したのみでは織りか刺繍かを判別するのは困難と言える秀逸な作品です。

刺繍の細密ぶり・色彩の美しさ・デザインの精巧さが際立つ”初期アームリカル”の名品裂です。



●本記事内容に関する参考(推奨)文献