●14世紀に作られスラウェシ島トラジャにもたらされたインド更紗中
に描かれたキンマの葉
※上画像は平凡社刊「別冊太陽 更紗」より転載いたしております
●トラジャ人が手掛けた木綿染め布(トラジャ更紗)中に描かれた
キンマの葉(生命樹) 19世紀作
ビンロウジ(檳榔子)を砕いたものと石灰・香辛料等をキンマの葉に包み口の中に入れて噛む、清涼感のある嗜好品”キンマ(蒟醤)”は、南アジアと東南アジアを中心とする熱帯アジア圏でひろく用いられてきたもので、古代に遡る長い歴史を有します。
またキンマの葉(betel leaf)自体に様々な薬効(有効)成分が含まれていることが知られており、噛み嗜好品とは別に、諸地域・諸民族それぞれの方法で薬としても用いられてきました。
鎮痛等の薬効成分及び興奮・酩酊作用を有する(とされる)キンマは、古来より宗教儀礼・呪術とも深い結びつきを有しており、意匠が凝らされた檳榔子カッターやビルマの蒟醤漆器等、儀礼に纏わる手工芸のうちにも、その結びつきの深さを伺うことができます。
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インドネシア・スラウェシ島トラジャにおいては、この地にもたらされた14世紀に遡るインド更紗(上掲)のうちに”キンマの葉”が描かれていることが確認されており、トラジャ向けデザインとされるインド更紗には、他の国・地域向けの交易インド更紗とは明らかに異なる高い頻度で”キンマの葉”が描かれていること(その作例)を見い出すことができます。
キンマの葉(=トラジャ語で”ドン・ボル”)は、トラジャの人々自身が手掛けた染織の意匠や伝統建造物の装飾デザイン等にも多用されており、それは豊穣を象徴する”生命樹”及び”聖牛信仰”とも結びつき、独自の展開を見せているように思われます。 (2)に続く
●トラジャ人の伝統建造物に描かれたキンマの葉(生命樹)
●嗜好品の蒟醤に用いられるキンマの葉